真宗大谷派西敬寺

仏説無量寿経巻上

曹魏天竺三蔵康僧鎧訳す

1我聞きたまえき2かくのごとき。

3一時45王舎城耆闍崛山の中に住したまいき。6大比丘衆、万二千人と倶なりき。

一切の大聖、神通すでに達せりき。

その名をば、尊者了本際・尊者正願・尊者正語・尊者大号・尊者仁賢・尊者離垢・尊者名聞・尊者善実・尊者具足・尊者牛王・尊者優楼頻螺迦葉・尊者伽耶迦葉・尊者那提迦葉・尊者摩訶迦葉・尊者舎利弗・尊者大目犍連・尊者劫賓那・尊者大住・尊者大浄志・尊者摩訶周那・尊者満願子・尊者離障・尊者流潅・尊者堅伏・尊者面王・尊者異乗・尊者仁性・尊者嘉楽・尊者善来・尊者羅云・尊者阿難と曰いき。

みな、かくのごとき上首たる者なり。

7また大乗のもろもろの菩薩と倶なりき。

8普賢菩薩と妙徳菩薩となり。慈氏菩薩等のこの賢劫の中の一切の菩薩に、また賢護等の十六の正士ありにき。善思議菩薩・信慧菩薩・空無菩薩・神通華菩薩・光英菩薩・慧上菩薩・智幢菩薩・寂根菩薩・願慧菩薩・香象菩薩・宝英菩薩・中住菩薩・制行菩薩・解脱菩薩なり。

9みな普賢大士の徳に遵って、もろもろの菩薩の無量の行願を具し一切功徳の法に安住せり。十方に遊歩して権方便を行じ、仏法の蔵に入りて彼岸を究竟し、無量の世界において現じて等覚を成じたまう。兜率天に処して正法を弘宣し、かの天宮を捨てて、神を母胎に降す。右脇より生じて現じて七歩を行ず。光明顕曜にして普く十方無量の仏土を照らしたまう。六種に震動す。声を挙げて自ら称う。「吾当に世において無上尊となるべし」と。釈・梵、奉侍し、天・人、帰仰す、算計・文芸・射・御を示現して博く道術を綜い群藉を貫練したまう。後園に遊んで武を講じ芸を試みる。現じて宮中、色味の間に処して、老・病・死を見て世の非常を悟る。国の財位を棄てて山に入りて道を学したまう。服乗の白馬・宝冠・瓔珞、これを遣わして還さしむ。珍妙の衣を捨てて法服を着る。鬚髪を剃除したまい、樹下に端座し勤苦したまうこと六年なり。行、所応のごとくまします。五濁の刹に現じて群生に随順す。塵垢ありと示して、金流に沐浴す。天、樹の枝を按して攀出することを得しむ。霊禽、翼従して道場に往詣す。吉祥、感徴して功祚を表章す。哀みて施草を受けて仏樹の下に敷き、跏趺してしかも坐す。大光明を奮って、魔をしてこれを知らしむ。魔、官属を率いて、来りて逼め試みる。制するに智力をもってして、みな降伏せしむ。微妙の法を得て最正覚を成る。釈・梵、祈勧して転法輪を請じたてまつる。仏の遊歩をもって、仏の吼をして吼す。法鼓を扣き、法螺を吹く。法剣を執り、法幢を建て、法雷を震い、法電を曜かし、法雨を澍ぎ、法施を演ぶ。常に法音をもって、もろもろの世間に覚らしむ。光明、普く無量仏土・一切世界を照らし六種に震動す。すべて魔界を摂して、魔の宮殿を動ず。衆魔、慴怖して帰伏せざるはなし。邪網を掴裂し、諸見を消滅す。もろもろの塵労を散じ、もろもろの欲塹を壊し、法城を厳護して法門を開闡す。垢汚を洗濯して清白を顕明す。仏法を光融して、正化を宣流す。国に入りて分衛して、もろもろの豊膳を獲、功徳を貯えて福田を示す。法を宣べんと欲して欣笑を現ず。もろもろの法薬をもって三苦を救療す。道意無量の功徳を顕現して、菩薩に記を授け、等正覚を成り、滅度を示現すれども、拯済すること極まりなし。諸漏を消除し、もろもろの徳本を植え、功徳を具足すること微妙にして量り難し。諸仏の国に遊びて、普く道教を現ず。その修行するところ、清浄にして穢れなし。たとえば幻師の、もろもろの異像を現じて男とならしめ、女とならしめ、変ぜざるところなし、本学明了にして意の所為にあるがごとし。このもろもろの菩薩もまたまたかくのごとし。一切の法を学びて、貫綜・縷練す。所住、安諦にして、化を無数の仏土に致さずということなし。みなことごとく普く現ず。未だ曾て慢恣せず。衆生を愍傷す。かくのごときの法、一切具足せり。菩薩の経典、要妙を究暢し、名称普く至りて、十方を導御す。無量の諸仏、みな共に護念したまう。仏の所住の者、みなすでに住することを得たり。大聖の所立は、しかもみなすでに立す。如来の導化は、おのおの能く宣布して、もろもろの菩薩のためにしかも大師と作る。甚深の禅慧をもって衆人を開導す。諸法の性を通り、衆生の相に達せり。明らかに諸国を了って、諸仏を供養したてまつる。その身を化現すること猶し電光のごとし。善く無畏の網を学び、暁かに幻化の法を了る。魔網を壊裂し、もろもろの纏縛を解く。声聞・縁覚の地を超越して、空・無相・無願三昧を得たり。善く方便を立して、三乗を顕示して、この中下において滅度を現ずれども、また所作なし、また所有なし。起せず滅せず、平等の法を得たり。無量の総持・百千の三昧を具足し成就す。諸根・智慧、広普寂定にして深く菩薩の法蔵に入る。仏の華厳三昧を得、一切の経典を宣暢し演説す。深定門に住してことごとく現在の無量の諸仏を覩たてまつる。一念の頃に周遍せざることなし。もろもろの劇難ともろもろの閑・不閑とを済いて、真実の際を分別し顕示す。もろもろの如来の弁才の智を得、もろもろの言音を入って、一切を開化す。世間のもろもろの所有の法に超過して、心常に諦かに度世の道に住す。一切の万物において意に随いて自在なり。もろもろの庶類のために請せざる友と作る。群生を荷負してこれを重担とす。如来の甚深の法蔵を受持し、仏の種性を護りて常に絶えざらしむ。大悲を興して衆生を愍れみ、慈弁を演べ、法眼を授く。三趣を杜ぎて、善門を開く。請せざる法をもってもろもろの黎庶に施すこと、純孝の子の父母を愛敬するがごとし。もろもろの衆生において、視わすこと自己のごとし。一切の善本みな彼岸に度す。ことごとく諸仏の無量の功徳を獲、智慧聖明にして不可思議なり。10かくのごときらの菩薩・大士、称げて計うべからず。一時に来会せりき。

11その時、世尊、諸根悦予し姿色清浄にして光顔巍巍とまします。12尊者阿難、仏の聖旨を承けてすなわち座より起ち、偏えに右の肩を袒ぎ、長跪合掌して仏に白して言さく、「今日、世尊、諸根悦予し姿色清浄にして、光顔魏魏とまします。明らかなる浄鏡の裏表に影暢するがごとし。威容顕曜にして超絶したまえること無量なり。未だ曾て瞻覩せず。殊妙なること今のごとくましますをば。唯然り。大聖、我が心に念言すらく、今日、世尊、奇特の法に住したまえり。今日、世雄、仏の所住に住したまえり。今日、世眼、導師の行に住したまえり。今日、世英、最勝の道に住したまえり。今日、天尊、如来の徳を行じたまえり。去・来・現の仏、仏と仏と相念じたまえり。今の仏も諸仏を念じたまうことなきことを得んや。何がゆえぞ威神光光たること乃し爾る」と。

13ここに世尊、阿難に告げて曰わく、「云何ぞ阿難、諸天の汝を教えて仏に来し問わしむるや。自ら慧見をもって威顔を問いたてまつるや。」14阿難、仏に白さく、「諸天の来りて我に教うる者、あることなし。自ら所見をもってこの義を問いたてまつるのみ」と。

15仏の言わく、「善きかなや。阿難。問いたてまつるところ、甚だ快し。深き智慧・真妙の弁才を発して衆生を愍念してこの慧義を問えり。如来、無蓋の大悲をもって三界を矜哀したまう。世に出興したまう所以は、道教を光闡して、群萠を拯い恵むに真実の利をもってせんと欲してなり。無量億劫に値いたてまつること難く、見たてまつること難し。霊瑞華の、時あって時に乃し出ずるがごとし。今、問えるところは饒益するところ多し。一切の諸天・人民を開化す。阿難、当に知るべし、如来の正覚、その智量り難くして導御したまうところ多し。慧見無碍にして、能く遏絶することなし。一餐の力をもって、能く寿命を住めたまうこと、億百千劫無数無量にして、またこれよりも過ぎたり。諸根悦予してもって毀損せず。姿色変ぜず。光顔異なることなし。所以は何となれば、如来は定・慧、究暢したまえること極まりなし。一切の法において自在を得たまえり。阿難、あきらかに聴け。今、汝がために説かん。」16対えて曰わく、「唯然り。願楽して聞きたまえんと欲う。」

17仏、阿難に告げたまわく、「乃往過去、久遠無量不可思議無央数劫に、錠光如来、世に出興して、無量の衆生を教化し度脱して、みな道を得せしめて乃し滅度を取りたまいき。次に如来ましましき。名をば光遠と曰う。次をば月光と名づく。次をば栴檀香と名づく。次をば善山王と名づく。次をば須弥天冠と名づく。次をば須弥等曜と名づく。次をば月色と名づく。次をば正念と名づく。次をば離垢と名づく。次をば無着と名づく。次をば龍天と名づく。次をば夜光と名づく。次をば安明頂と名づく。次をば不動地と名づく。次をば瑠璃妙華と名づく。次をば瑠璃金色と名づく。次をば金蔵と名づく。次をば焰光と名づく。次をば焰根と名づく。次をば地動と名づく。次をば月像と名づく。次をば日音と名づく。次をば解脱華と名づく。次をば荘厳光明と名づく。次をば海覚神通と名づく。次をば水光と名づく。次をば大香と名づく。次をば離塵垢と名づく。次をば捨厭意と名づく。次をば宝焰と名づく。次をば妙頂と名づく。次をば勇立と名づく。次をば功徳持慧と名づく。次をば蔽日月光と名づく。次をば日月瑠璃光と名づく。次をば無上瑠璃光と名づく。次をば最上首と名づく。次をば菩提華と名づく。次をば月明と名づく。次をば日光と名づく。次をば華色王と名づく。次をば水月光と名づく。次をば除痴瞑と名づく。次をば度蓋行と名づく。次をば浄信と名づく。次をば善宿と名づく。次をば威神と名づく。次をば法慧と名づく。次をば鸞音と名づく。次をば師子音と名づく。次をば龍音と名づく。次をば処世と名づく。かくのごときの諸仏、みなことごとくすでに過ぎたまいき。

18その時に次に仏ましましき。世自在王、如来・応供・等正覚・明行足・善逝・世間解・無上士・調御丈夫・天人師・仏・世尊と名づけたてまつる。19時に国王ましましき。仏の説法を聞きて心に悦予を懐き、尋ち無上正真道の意を発しき。国を棄て、王を捐てて、行じて沙門と作り、号して法蔵と曰いき。高才勇哲にして、世と超異せり。20世自在王如来の所に詣でて、仏の足を稽首し、右に繞ること三帀して、長跪し合掌して21頌をもって讃じて曰わく、

22光顔巍巍として、威神極まりましまさず。

かくのごときの焰明、与に等しき者なし。

日月・摩尼 珠光・焰耀も

みなことごとく隠蔽して、猶し聚墨のごとし。

如来の容顔、世に超えて倫なし。

正覚の大音、響き十方に流る。

戒聞・精進・三昧・智慧、

威徳侶なし、殊勝希有なり。

深く諦かに善く、諸仏の法海を念じ、

深を窮め奥を尽くして、その涯底を究む。

無明・欲・怒、世尊永くましまさず。

人雄・師子、神徳無量なり。

功勲広大にして、智慧深妙なり。

光明・威相、大千に震動す。

願わくは我作仏して、聖法の王と斉しからん。

生死を過度して、解脱せずということなからしむ。

布施・調意・戒・忍・精進、

かくのごときの三昧、智慧上れたりとせん。

吾誓う、仏を得んに、普くこの願を行ぜん。

一切の恐懼に、ために大安を作さん。

たとい仏まします。百千億万、

無量の大聖、数、恒沙のごとくならん。

一切の、これらの諸仏を供養せんよりは、

道を求めて、堅正にして却かざらんには如かじ。

たとえば恒沙のごときの諸仏の世界、

また計うべからず。無数の刹土、

光明ことごとく照らして、このもろもろの国に遍くせん。

かくのごとく精進にして、威神量り難からん。

我仏に作らん、国土をして第一ならしめん。

その衆、奇妙にして、道場、超絶ならん。

国泥洹のごとくして、等双なけん。

我当に哀愍して、一切を度脱せん。

十方より来生せんもの、心悦ばしめて清浄ならん。

すでに我が国に到りて、快楽安穏ならん。

幸わくは仏、信明したまえ、これ我が真証なり。

願を発して彼において、所欲を力精せん。

十方の世尊、智慧無碍にまします。

常にこの尊をして、我が心行を知らしめん。

たとい、身をもろもろの苦毒の中に止るとも、

我が行、精進にして忍びて終に悔いじ。」

23仏、阿難に告げたまわく、「法蔵比丘、この頌を説き已りて、仏に白して言さく、「唯然り。世尊、我無上正覚の心を発せり。願わくは、仏、我がために広く経法を宣べたまえ。我当に修行して仏国を摂取し、清浄に無量の妙土を荘厳すべし。我世において速やかに正覚を成らしめて、もろもろの生死・勤苦の本を抜かしめん。」」

仏、阿難に語りたまわく、「時に世饒王仏、法蔵比丘に告げたまわく、「修行せんところのごとく、荘厳の仏土、汝自ら当に知るべし。」比丘、仏に白さく、「この義弘深にして我が境界にあらず。唯願わくは世尊、広くために諸仏・如来の浄土の行を敷衍したまえ。我これを聞き已りて当に説のごとく修行して所願を成満すべし。」その時に世自在王仏、その高明の志願の深広なるを知ろしめして、すなわち法蔵比丘のために、しかも経を説きて言わく、「たとえば大海を一人升量せんに、劫数を経歴して、尚底を窮めてその妙宝を得べきがごとし。人、心を至し精進にして道を求めて止まざることあれば、みな当に剋果すべし。何れの願いをか得ざらん。」ここに世自在王仏、すなわちために広く二百一十億の諸仏刹土の天人の善悪、国土の麁妙を説きて、その心願に応じてことごとく現じてこれを与えたまう。時にかの比丘、仏の所説の厳浄の国土を聞きて、みなことごとく覩見して、無上殊勝の願を超発せり。その心寂静にして、志着するところなし。一切の世間に能く及ぶ者なけん。五劫を具足して、荘厳仏国の清浄の行を思惟し摂取す。」阿難、仏に白さく、「かの仏の国土の寿量、幾何ぞ。」仏の言わく、「その仏の寿命は、四十二劫なりき。」時に法蔵比丘、二百一十億の諸仏妙土の清浄の行を摂取しき。24かくのごとく修し已りてかの仏の所に詣でて、稽首し足を礼して、仏を繞ること三帀して、合掌して住して、仏に白して言さく、「世尊、我すでに荘厳仏土の清浄の行を摂取しつ」と。

25仏、比丘に告げたまわく、「汝、今説くべし。宜しく知るべし。これ時なり。一切の大衆を発起し悦可せしめよ。菩薩聞き已りてこの法を修行して、縁として無量の大願を満足することを致さん。」

26比丘、仏に白さく、「唯聴察を垂れたまえ。我が所願のごとく当に具にこれを説くべし。

27たとい我、仏を得んに、国に地獄・餓鬼・畜生あらば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、寿終わりての後、また三悪道に更らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、ことごとく真金色ならずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、形式不同にして、好醜醜あらば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、宿命を識らず、下、百千億那由他の諸劫の事を知らざるに至らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、天眼を得ずして、下、百千億那由他の諸仏の国を見ざるに至らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、天耳を得ずして、下、百千億那由他の諸仏の所説を聞きて、ことごとく受持せざるに至らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、他心を見る智を得ずして、下、百千億那由他の諸仏の国の中の衆生の心念を知らざるに至らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、神足を得ずして、一念の頃において、下、百千億那由他の諸仏の国を超過すること能わざるに至らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、もし想念を起こして、身を貪計せば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、定聚に住し必ず滅度に至らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、光明能く限量ありて、下、百千億那由他の諸仏の国を照らさざるに至らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、寿命能く限量ありて、下、百千億那由他の劫に至らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の声聞、能く計量ありて、下、三千大千世界の声聞・縁覚、百千劫において、ことごとく共に計校して、その数を知るに至らば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、寿命能く限量なけん。その本願、修短自在ならんをば除く。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、乃至不善の名ありと聞かば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、十方世界の無量の諸仏、ことごとく咨嗟して、我が名を称せずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、十方衆生、心を至し信楽して我が国に生まれんと欲うて、乃至十念せん。もし生まれずは、正覚を取らじ。唯五逆と正法を誹謗せんをば除く。

たとい我、仏を得んに、十方衆生、菩提心を発し、もろもろの功徳を修して、心を至し願を発して我が国に生まれんと欲わん。寿終わる時に臨んで、たとい大衆と囲繞してその人の前に現ぜずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、十方の衆生、我が名号を聞きて、念を我が国に係けて、もろもろの徳本を植えて、心を至し回向して我が国に生まれんと欲わんに、果遂せずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、ことごとく三十二大人の相を成満せずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、他方の仏土のもろもろの菩薩衆、我が国に来生して、究竟して必ず一生補処に至らん。その本願の自在の所化、衆生のためのゆえに、弘誓の鎧を被て、徳本を積累し、一切を度脱し、諸仏の国に遊んで、菩薩の行を修し、十方の諸仏如来を供養し、恒沙無量の衆生を開化して、無上正真の道を立てしめんをば除かん。常倫に超出し、諸地の行現前し、普賢の徳を修習せん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、仏の神力を承けて、諸仏を供養し、一食の頃に遍く無数無量那由他の諸仏の国に至ること能わずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、諸仏の前にありて、その徳本を現じ、もろもろの欲求せんところの供養の具、もし意のごとくならずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、一切の智を演説すること能わずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、金剛那羅延の身を得ずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、一切万物厳浄光麗にして、形色殊特ならん。窮微極妙にして、能く称量することなけん。そのもろもろの衆生、乃至天眼を逮得せん。能く明了にその名数を弁うることあらば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、乃至少功徳の者、その道場樹の無量の光色あって、高さ四百万里なるを知見すること能わずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、もし経法を受読し、諷誦持説して、弁才智慧を得ずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、智慧弁才、もし限量すべくんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国土清浄にして、みなことごとく十方一切の無量無数不可思議の諸仏世界を照見せんこと、猶し明鏡にその面像を覩るがごとくならん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、地より已上、虚空に至るまで、宮殿・楼観・池流・華樹、国の中のあらゆる一切万物、みな、無量の雑宝百千種の香をもって、しかも共に合成せん。厳飾奇妙にして、もろもろの人天に超えん。その香、普く十方世界に薫ぜん。菩薩、聞かん者、みな仏行を修せん。もしかくのごとくならずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、十方無量不可思議の諸仏世界の衆生の類、我が光明を蒙りてその身に触れん者、身心柔軟にして、人天に超過せん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、十方無量不可思議の諸仏世界の衆生の類、我が名字を聞きて、菩薩の無生法忍、もろもろの深総持を得ずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、十方無量不可思議の諸仏世界に、それ女人あって、我が名字を聞きて、歓喜信楽し、菩提心を発して、女身を厭悪せん。寿終りての後、また女像とならば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、十方無量不可思議の諸仏世界のもろもろの菩薩衆、我が名字を聞きて、寿終わりての後、常に梵行を修して、仏道を成るに至らん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、十方無量不可思議の諸仏世界の諸天人民、我が名字を聞きて、五体を地に投げて、稽首作礼し、歓喜信楽して、菩薩の行を修せん。諸天世人、敬いを致さずということなけん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、衣服を得んと欲わば、念に随いてすなわち至らん。仏の所讃の応法の妙服のごとく、自然に身にあらん。もし裁縫・擣染・浣濯することあらば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の人天、受けんところの快楽、漏尽比丘のごとくならずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、意に随いて十方無量の厳浄の仏土を見んと欲わん。時に応じて順のごとく、宝樹の中にして、みなことごとく照見せんこと、猶し明鏡にその面像を覩るがごとくならん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、他方国土のもろもろの菩薩衆、我が名字を聞きて、仏を得んに至るまで、諸根闕陋して具足せずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、他方国土のもろもろの菩薩衆、我が名字を聞きて、みなことごとく清浄解脱三昧を逮得せん。この三昧に住して、一意を発さん頃に、無量不可思議の諸仏世尊を供養したてまつりて、しかも定意を失せじ。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、他方国土のもろもろの菩薩衆、我が名字を聞きて、寿終わりての後、尊貴の家に生まれん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、他方国土のもろもろの菩薩衆、我が名字を聞きて、歓喜踊躍して、菩薩の行を修し、徳本を具足せん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、他方国土のもろもろの菩薩衆、我が名字を聞きて、みなことごとく普等三昧を逮得せん。この三昧に住して、成仏に至るまで、常に無量不可思議の一切の諸仏を見たてまつらん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、国の中の菩薩、その志願に随いて、聞かんと欲わんところの法、自然に聞くことを得ん。もし爾らずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、他方国土のもろもろの菩薩衆、我が名字を聞きて、すなわち不退転に至ることを得ずんば、正覚を取らじ。

たとい我、仏を得んに、他方国土のもろもろの菩薩衆、我が名字を聞きて、すなわち第一・第二・第三法忍に至ることを得ず、諸仏の法において、すなわち不退転を得ること能わずんば、正覚を取らじ。」」

28仏、阿難に告げたまわく、「その時に法蔵比丘、この願を説き已りて頌を説きて曰わく、

我、超世の願を建つ、必ず無上道に至らん、

この願満足せずは、誓う、正覚を成らじ。

我、無量劫において、大施主となりて

普くもろもろの貧苦を済わずは、誓う、正覚を成らじ。

我、仏道を成るに至りて、名声十方に超えん。

究竟して聞ゆるところなくは、誓う、正覚を成らじ。

離欲と深正念と、浄慧と梵行を修して、

無上道を志求して、もろもろの天人の師とならん。

神力、大光を演べて、普く無際の土を照らし、

三垢の冥を消除して、広くもろもろの厄難を済わん。

かの智慧の眼を開きて、この昏盲の闇を滅せん。

もろもろの悪道を閉塞して、善趣の門を通達せん。

功祚、成満足して、威曜十方に朗かならん。

日月重暉を戢めて、天の光も隠れて現ぜじ。

衆のために法蔵を開きて、広く功徳の宝を施せん。

常に大衆の中にして、法を説きて師子吼せん。

一切の仏を供養したてまつり、もろもろの徳本を具足せん。

願慧ことごとく成満して、三界の雄たることを得たまえり。

仏の無碍の智のごとく、通達して照らさざることなからん。

願わくは我が功慧の力、この最勝の尊に等しからん。

この願、もし剋果すべくは、大千感動すべし。

虚空のもろもろの天人、当に珍妙の華を雨らすべし。」

29仏、阿難に告げたまわく、「法蔵比丘、この頌を説き已るに、時に応じて普く、地、六種に震動す。天より妙華を雨りて、もってその上に散ず。自然の音楽、空の中にして讃めて言わく、「決定して必ず無上正覚を成るべし」と。30ここに法蔵比丘、かくのごときの大願を具足し修満し、誠諦にして虚しからず。世間に超出して深く寂滅を楽う。

31阿難、時にかの比丘、その仏の所、諸天・魔・龍神八部、大衆の中にして、この弘誓を発し、この願を建て已りて、一向に志を専らにして、妙土を荘厳す。修するところの仏国、恢廓広大にして、超勝独妙なり。建立常然にして、衰なく変なし。不可思議の兆載永劫において、菩薩の無量の徳行を積植して、欲覚・瞋覚・害覚を生ぜず。欲想・瞋想・害想を起こさず。色・声・香・味・触・法に着せず。忍力成就して衆苦を計らず。少欲知足にして、染・恚・痴なし。三昧常寂にして、智慧無碍なり。虚偽・諂曲の心あることなし。和顔愛語にして、意を先にして承問す。勇猛精進にして、志願倦むことなし。専ら清白の法を求めて、もって群生を恵利しき。三宝を恭敬し、師長に奉事す。大荘厳をもって衆行を具足し、もろもろの衆生をして功徳を成就せしむ。空・無相・無願の法に住して、作なく起なし。法は化のごとしと観ず。麁言の自害と害彼と彼此倶に害するを遠離して、善語の自利・利人と人我兼利するを修習しき。国を棄て王を捐てて、財色を絶ち去け、自ら六波羅蜜を行じ、人を教えて行ぜしむ。無央数劫に功を積み徳を累ねて32その生処に随いて意の所欲にあり。無量の宝蔵、自然に発応す。無数の衆生を教化し安立して、無上正真の道に住せしむ。あるいは長者・居士・豪姓・尊貴となり、あるいは刹利国君・転輪聖帝となり、あるいは六欲天主、乃至、梵王となりて、常に四事をもって一切の諸仏を供養し恭敬したてまつる。かくのごときの功徳、称説すべからず。口の気、香潔にして優鉢羅華のごとし。身のもろもろの毛孔より、栴檀香を出だす。その香、普く無量の世界に薫ず。容色端正にして、相好殊妙なり。その手より常に無尽の宝を出だす。衣服・飲食・珍妙の華香・繒蓋・幢幡・荘厳の具、かくのごときらの事、もろもろの天人に超えて、一切の法において自在を得たりき。」

33阿難、仏に白さく、「法蔵菩薩、すでに成仏して滅度を取りたまえりとやせん。未だ成仏したまわずとやせん。今、現にましますとやせん」と。仏、阿難に告げたまわく、「法蔵菩薩、今すでに成仏して、現に西方にまします。此を去ること十万億の刹なり。その仏の世界を名づけて安楽と曰う。」阿難、また問いたてまつる。「その仏、成道したまいてより已来、幾の時を経たまえりとかせん」と。仏の言わく、「成仏より已来、おおよそ十劫を歴たまえり。

34その仏国土には、自然の七宝、金・銀・瑠璃・珊瑚・琥珀・硨磲・碼碯、合成して地とせり。恢廓曠蕩として限極すべからず。ことごとく相雑廁して転た相入間せり。光赫焜耀にして、微妙奇麗なり。清浄に荘厳して、十方一切の世界に超踰せり。衆宝の中の精なり。その宝、猶し第六天の宝のごとし。35またその国土には、須弥山および金剛鉄囲・一切の諸山なし。また大海・小海・谿渠・井谷なし。仏神力のゆえに、見んと欲えばすなわち現ず。また地獄・餓鬼・畜生・諸難の趣なし。また四時、春秋冬夏なし。寒からず熱からず。常に和かにして調適なり。」36その時に阿難、仏に白して言さく、「世尊、もしかの国土に須弥山なくは、その四天王および忉利天、何に依りてか住せん」と。仏、阿難に語りたまわく、「第三の焰天、乃至、色究竟天、みな何に依りてか住せんと」と。阿難、仏に白さく、「行業果報不可思議なればなり」と。仏、阿難に語りたまわく、「行業果報不可思議ならば、諸仏世界世界もまた不可思議なり。そのもろもろの衆生、功徳善力をもって行業の地に住す。かるがゆえによく爾るまくのみ」と。阿難、仏に白さく、「我この法を疑わず。但将来の衆生の、その疑惑を除かんと欲うがためのゆえに、この義を問たてまつる」と。

37仏、阿難に告げたまわく、「無量寿仏の威神光明、最尊第一にして、諸仏の光明及ぶこと能わざるところなり。38あるいは仏の光の百仏世界を照らすあり。あるいは千仏世界なり。要を取りてこれを言わば、すなわち東方恒沙の仏刹を照らす。南西北方・四維・上下も、またまたかくのごとし。あるいは仏の光の七尺を照らすあり。あるいは一由旬・二・三・四・五由旬を照らす。かくのごとく転た倍して、乃至、一仏刹土を照らす。39このゆえに無量寿仏を、無量光仏・無辺光仏・無碍光仏・無対光仏・焰王光仏・清浄光仏・歓喜光仏・智慧光仏・不断光仏・難思光仏・無称光仏・超日月光仏と号す。それ衆生ありて、この光に遇えば、三垢消滅し、身意柔軟にして、歓喜踊躍し善心を焉に生ず。もし三塗・勤苦の処にありてこの光明を見たてまつれば、みな休息することを得て、また苦悩なけん。寿終わりて後、みな解脱を蒙る。無量寿仏の光明顕赫にして、十方諸仏の国土を照耀したまうに、聞こえざることなし。但我が今、その光明を称するのみにあらず。一切の諸仏・声聞・縁覚・もろもろの菩薩衆もことごとく共に歎誉したまうこと、またまたかくのごとし。もし衆生ありて、その光明威神功徳を聞きて、日夜に称説して心を至して断えざれば、意の所願に随いて、その国に生まるることを得て、もろもろの菩薩・声聞・大衆のために、共に歎誉しその功徳を称せられん。それ然うして後、仏道を得ん時に至りて、普く十方の諸仏・菩薩のために、その光明を歎められんこと、また今のごとくならん。」仏の言わく、「我無量寿仏の光明威神、巍巍殊妙なるを説かんに、昼夜一劫すとも尚未だ尽くること能わじ。」

40仏、阿難に語りたまわく、「無量寿仏は寿命長久にして称計すべからず。汝むしろ知らんや。たとい十方世界の無量の衆生、みな人身を得てことごとく声聞・縁覚を成就せしめて、すべて共に集会して、思いを禅かにし心を一つにして、その智力を竭して百千万劫において、ことごとく共に推算してその寿命の長遠の数を計えんに、窮め尽くしてその限極を知ること能わじ。

41声聞・菩薩・天・人の衆の寿命の長短も、またまたかくのごとし。算数・譬喩の能く知るところにあらずとなり。42また声聞・菩薩、その数量り難し。称説すべからず。神智洞達して、威力自在なり。能く掌の中において一切世界を持せり。」

仏、阿難に語りたまわく、「かの仏の初会の声聞衆の数、称計すべからず。菩薩もまた然なり。今の大目犍連のごとく、百千万億無量無数にして、阿僧祇那由他劫において、乃至滅度までことごとく共に計校すとも、多少の数を究め了すること能わじ。たとえば大海の深広にして無量なるがごとし。たとい人ありて、その一毛を拆きて、もって百分となして、一分の毛をもって一渧を沾し取らん。意において云何ぞ。その渧るところの者は、かの大海において何れをか多しとする」と。阿難、仏に白さく、「かの渧るところの水を大海に比ぶるに、多少の量、巧暦・算数・言辞・譬類の能く知るところにあらず」となり。仏、阿難に語りたまわく、「目連等のごとき、百千万億那由他劫において、かの初会の声聞・菩薩を計えんに、知るところの数は猶し一渧のごとし。その知らざるところは大海の水のごとし。

43またその国土に七宝のもろもろの樹、世界に周満せり。44金樹・銀樹・瑠璃樹・玻瓈樹・珊瑚樹・碼碯樹・硨磲樹なり。あるいは二宝・三宝、乃至、七宝、転た共に合成せるあり。あるいは金樹に銀葉華果なるあり。あるいは銀樹に金葉華果なるあり。あるいは瑠璃樹に玻瓈を葉とす。華果また然なり。あるいは水精樹に瑠璃を葉とす。華果また然なり。あるいは珊瑚樹に碼碯を葉とす。華果また然なり。あるいは碼碯樹に瑠璃を葉とす。華果また然なり。あるいは硨磲樹に衆宝を葉とす。華果また然なり。あるいは宝樹あり、紫金を本とし、白銀を茎とし、瑠璃を枝とし、水精を条とし、珊瑚を葉とし、碼碯を華とし、硨磲を実とす。あるいは宝樹あり。白銀を本とし、瑠璃を茎とし、水精を枝とし、珊瑚を条とし、碼碯を葉とし、硨磲を華とし、紫金を実とす。あるいは宝樹あり、瑠璃を本とし、水精を茎とし、珊瑚を枝とし、碼碯を条とし、硨磲を葉とし、紫金を華とし、白銀を実とす。あるいは宝樹あり、水精を本とし、珊瑚を茎とし、碼碯を枝とし、硨磲を条とし、紫金を葉とし、白銀を華とし、瑠璃を実とす。あるいは宝樹あり、珊瑚を本とし、碼碯を茎とし、硨磲を枝とし、紫金を条とし、白銀を葉とし、瑠璃を華とし、水精を実とす。あるいは宝樹あり、碼碯を本とし、硨磲を茎とし、紫金を枝とし、白銀を条とし、瑠璃を葉とし、水精を華とし、珊瑚を実とす。あるいは宝樹あり、硨磲を本とし、紫金を茎とし、白銀を枝とし、瑠璃を条とし、水精を葉とし、珊瑚を華とし、碼碯を実とす。45このもろもろの宝樹、行行相値い、茎茎相望み、枝枝相準い、葉葉相向かい、華華相順い、実実相当れり。栄色光耀、勝げて視るべからず。46清風時に発りて、五つの音声を出だす。微妙にして宮商自然に相和す。

47また無量寿仏のその道場樹は、高さ四百万里なり。その本、周囲五十由旬なり。枝葉四に布けること二十万里なり。一切の衆宝自然に合成せり。月光摩尼・持海輪宝・衆宝の王たるをもって、これを荘厳せり。条の間に周帀して、宝の瓔珞を垂れたり。百千万の色、種種に異変す。無量の光焰、照耀極まりなし。珍妙の宝網、その上に羅覆せり。一切の荘厳、応に随いて現ず。微風徐く動きてもろもろの枝葉を吹くに、無量の妙法の音声を演出す。その声流布して諸仏の国に遍ず。48その声を聞けば深法忍を得、不退転に住せん。仏道を成るに至りて、耳根清徹にして、苦患に遭わず。目にその色を覩、耳にその声を聞き、鼻にその香を知り、舌にその味いを嘗め、身にその光を触れ、心に法をもって縁ずるに、一切みな甚深の法忍を得、不退転に住せん。仏道を成るに至るまで、六根清徹にして、もろもろの悩患なし。阿難、もしかの国の人天、この樹を見るもの、三法忍を得。一つには音響忍、二つには柔順忍、三つには無生法忍なり。これみな無量寿仏の威神力のゆえに、本願力のゆえに、満足願のゆえに、明了願のゆえに、堅固願のゆえに、究竟願のゆえなり。」

49仏、阿難に告げたまわく、「世間の帝王に百千の音楽あり。転輪聖王より、乃至、第六天上の伎楽の音声、展転して相勝れたること、千億万倍なり。第六天上の万種の楽音、無量寿国のもろもろの七宝樹の一種の音声に如かざること、千億倍なり。50また自然の万種の伎楽あり。またその楽の声、法音にあらざることなし。清揚哀亮にして微妙和雅なり。十方世界の音声の中に最も第一とす。

51また講堂・精舎・宮殿・楼観、みな七宝荘厳して自然に化成す。また真珠・明月摩尼・衆宝をもって、もって交露とす。その上に覆蓋せり。52内外左右に、もろもろの浴池あり。あるいは十由旬、あるいは二十・三十、乃至、百千由旬なり。縦広、深浅、おのおのみな一等なり。八功徳の水、湛然として盈満せり。清浄香潔にして、味い甘露のごとし。黄金の池には、底に白銀の沙あり。白銀の池には、底に黄金の沙あり。水精の池には、底に瑠璃の沙あり。瑠璃の池には、底に水精の沙あり。珊瑚の池には、底に琥珀の沙あり。琥珀の池には、底に珊瑚の沙あり。硨磲の池には、底に碼碯の沙あり。碼碯の池には、底に硨磲の沙あり。白玉の池には、底に紫金の沙あり。紫金の池には、底に白玉の沙あり。あるいは二宝・三宝、乃至、七宝、転た共に合成せり。その池の岸の上に、栴檀樹あり。華葉垂れ布きて、香気普く薫ず。天の優鉢羅華・鉢曇摩華・拘物頭華・分陀利華・雑色光茂にして、弥く水の上に覆えり。53かのもろもろの菩薩および声聞衆、もし宝池に入りて意に水をして足を没さしめんと欲えば、水すなわち足を没す。膝に至らしめんと欲えば、すなわち膝に至る。腰に至らしめんと欲えば、水すなわち腰に至る。頚に至らしめんと欲えば、水すなわち頚に至る。身に潅がしめんと欲えば、自然に身に潅ぐ。還復せしめんと欲えば、水すなわち還復す。調和冷煖にして、自然に意に随う。神を開き体を悦ばしむ。心垢を蕩除して、清明澄潔にして、浄きこと、形なきがごとし。宝沙映徹して、深きをも照らさざることなけん。微瀾回流して転た相潅注す。安詳にして徐く逝きて、遅からず疾からず。54波揚りて無量なり。自然の妙声、その所応に随いて聞こえざる者なけん。あるいは仏の声を聞き、あるいは法の声を聞き、あるいは僧の声を聞く。あるいは寂静の声、空無我の声、大慈悲の声、波羅蜜の声、あるいは十力・無畏・不共法の声・諸通慧の声、無所作の声、不起滅の声、無生忍の声、乃至、甘露潅頂、もろもろの妙法の声、かくのごときらの声、その所聞に称いて、歓喜すること無量なり。清浄・離欲・寂滅・真実の義に随順し、三宝・力・無所畏・不共の法に随順し、通慧、菩薩・声聞所行の道に随順し、三塗苦難の名あることなし。但自然快楽の声あり。このゆえにその国を名づけて安楽と曰う。

55阿難、かの仏国土にもろもろの往生する者は、かくのごときの清浄の色身、もろもろの妙音声、神通功徳を具足す。処するところの宮殿・衣服・飲食・もろもろの妙華香・荘厳の具、猶し第六天の自然の物のごとし。もし食せんと欲う時は、七宝の鉢器、自然に前にあり。金・銀・瑠璃・硨磲・碼碯・珊瑚・琥珀・明月・真珠、かくのごときのもろもろの鉢、意に随いて至る。百味の飲食、自然に盈満す。この食ありといえども、実に食する者なし。但、色を見、香を聞くに、意に食をなすと以えり。自然に飽足す。身心柔軟にして、味着するところなし。事已れば化して去る。時至ればまた現ず。56かの仏国土は清浄安穏にして微妙快楽なり。無為泥洹の道に次し。57そのもろもろの声聞・菩薩・天・人、智慧高明にして、神通洞達せり。ことごとく同じく一類にして、形異状なし。但し余方に因順するがゆえに、天・人の名あり。58顔貌端正にして、世に超えて希有なり。容色微妙にして、天にあらず人にあらず。みな、自然虚無の身、無極の体を受けたり。」

59仏、阿難に告げたまわく、「たとえば世間に貧窮乞人の、帝王の辺にあらんがごとし。形貌容状、むしろ類すべけんや。」阿難、仏に白さく、「たといこの人、帝王の辺にあらんに、羸陋醜悪にして、もって喩えとすることなけん。百千万億不可計倍ならん。然る所以は、貧窮乞人は底極廝下にして、衣、形を蔽さず。食、趣に命を支う。飢寒困苦して、人理殆と尽きなんとす。みな、前世に徳本を植えず、財を積みて施さず、有るに富みて益す慳み、但、唐らに得んと欲うて貪求して厭うことなし、肯て善を修せず、悪を犯すこと山のごとく積もるに坐してなり。かくのごとくして寿終え、財宝消散して、身を苦しましめて聚積して、これがために憂悩すれども己において益なし。徒らに他の有と為る。善として怙むべきなし。徳として恃むべきなし。このゆえに死して悪趣に堕して、この長苦を受く。罪畢りて出ずることを得て、生まれて下賎と為りて愚鄙廝極にして、人類に示同す。世間に帝王の、人中に独尊なる所以は、みな宿世に徳を積めるによりて致すところなり。慈恵博く施し、仁愛兼ねて済う。信を履み善を修して、違諍するところなし。ここをもって寿終え、福応じて善道に昇ることを得、天上に上生してこの福楽を享く。積善の余慶に、今、人と為ることを得たり。たまたま王家に生まれて、自然に尊貴なり。儀容端正にして衆の敬事するところなり。妙衣珍膳、心に随いて服御す。宿福の追うところなるがゆえに能くこれを致す。」

仏、阿難に告げたまわく、「汝が言、是なり。計りみるに、帝王のごとき、人中の尊貴にして形色端正なりといえども、これを転輪聖王に比ぶるに甚だ鄙陋なりとす。猶しかの乞人の帝王の辺にあるがごとくなり。転輪聖王、威相殊妙にして天下に第一なれども、これを忉利天王に比ぶるに、また醜悪にして相喩うることを得ざること万億倍なり。たとい天帝を第六天王に比ぶるに、百千億倍相類せざるなり。たとい第六天王を無量寿仏国の菩薩・声聞に比ぶるに、光顔容色相及逮ばざること百千万億不可計倍なり。」

60仏、阿難に告げたまわく、「無量寿国のもろもろの天人、衣服・飲食・華香・瓔珞・繒蓋・幢幡・微妙の音声・所居の舎宅・宮殿・楼観、その形色に称う。高下大小なり。61あるいは一宝・二宝、乃至、無量の衆宝、意の所欲に随いて、念に応じてすなわち至る。62また衆宝の妙衣をもって、遍くその地に布けり。一切の天人これを践みて行く。63無量の宝網、仏土に弥覆せり。みな金縷・真珠・百千の雑宝、奇妙珍異なるをもって荘厳し交飾せり。四面に周帀して垂るるに宝鈴をもってす。光色晃耀にして、尽極厳麗にして64自然の徳風、徐く起こりて微動す。その風調和にして、寒からず暑からず。温涼柔軟にして遅からず疾からず。もろもろの羅網およびもろもろの宝樹を吹くに、無量微妙の法音を演発し、万種温雅の徳香を流布す。それ聞くことあれば、塵労垢習、自然に起こらず、風その身に触るるに、みな快楽を得。たとえば比丘の滅尽三昧を得るがごとし。

また風、華を吹き散らして遍く仏土に満つ。色の次第に随いて雑乱せず。柔軟光沢にして馨香芬烈せり。足その上を履むに、陥み下ること四寸。足を挙げ已るに随いて還復すること故のごとし。華用いること已訖れば、地すなわち開裂して、次いでもって化没す。清浄にして遺りなし。その時節に随いて、風華を吹き散らす。かくのごとくして六辺す。65また衆宝の蓮華、世界に周満せり。一一の宝華、百千億の葉あり。その華、光明、無量種の色なり。青き色には青き光、白き色には白き光あり。玄黄朱紫、光色もまた然なり。暐曄煥爛として、日月よりも明曜なり。一一の華の中より三十六百千億の光を出だす。一一の光の中より三十六百千億の仏を出だす。身色紫金にして、相好殊特なり。一一の諸仏また百千の光明を放ちて、普く十方のために微妙の法を説きたまう。かくのごときの諸仏、各各無量の衆生を、仏の正道に安立せしめたまう。」

仏説無量寿経巻上

 

仏説無量寿経巻下

曹魏天竺三蔵康僧鎧訳す

66仏、阿難に告げたまわく、「それ衆生ありてかの国に生ずれば、みなことごとく正定の聚に住す。所以は何ん。かの仏国の中には、もろもろの邪聚および不定聚なければなり。67十方恒沙の諸仏如来、みな共に無量寿仏の威神功徳の不可思議なることを讃歎したまう。68あらゆる衆生、その名号を聞きて、信心歓喜せんこと、乃至一念せん。心を至し回向したまえり。かの国に生まれんと願ずれば、すなわち往生を得て不退転に住す。唯五逆と誹謗正法とを除く。」

69仏、阿難に告げたまわく、「十方世界の諸天人民、それ心を至してかの国に生まれんと願ずることあらん。おおよそ三輩あり。70その上輩というは、家を捨て欲を棄てて沙門と作り、菩提心を発し、一向に専ら無量寿仏を念じ、もろもろの功徳を修して、かの国に生まれんと願ぜん。これらの衆生、寿終わらん時に臨んで、無量寿仏ともろもろの大衆と、その人の前に現ぜん。すなわちかの仏に随いてその国に往生せん。すなわち七宝華の中より自然に化生し、不退転に住せん。智慧勇猛にして神通自在ならん。このゆえに阿難、それ衆生ありて、今世において無量寿仏を見たてまつらんと欲わば、無上菩提の心を発し功徳を修行してかの国に生まれんと願ずべし。」

71仏、阿難に語りたまわく、「それ中輩というは、十方世界の諸天人民、それ心を至してかの国に生まれんと願ずることあらん。行じて沙門と作り大きに功徳を修すること能わずといえども、当に無上菩提の心を発し一向に専ら無量寿仏を念じ、多少に善を修し、斎戒を奉持し、塔像を起立し、沙門に飯食せしめ、繒を懸け燈を然し、華を散じ香を焼きて、これをもって回向してかの国に生まれんと願ぜん。その人終わりに臨んで、無量寿仏、その身を化現せん。光明相好つぶさに真仏のごとくならん。もろもろの大衆とその人の前に現ぜん。すなわち化仏に随いてその国に往生し不退転に住せん。功徳智慧、次いで上輩のごとくならん。」

72仏、阿難に告げたまわく、「その下輩というは、十方世界の諸天人民、それ心を至してかの国に生まれんと欲せんことあらん。たといもろもろの功徳を作ること能わざれども、当に無上菩提の心を発して一向に意を専らにして、乃至十念、無量寿仏を念じてその国に生まれんと願ずべし。もし深法を聞きて歓喜信楽せん。疑惑を生ぜず。乃至一念、かの仏を念じて至誠心をもってその国に生まれんと願ぜん。この人終わりに臨んで夢のごとくにかの仏を見たてまつりて、また往生を得。功徳智慧、次いで中輩の者のごとくならん。」

73仏、阿難に告げたまわく。「無量寿仏の威神極まりなし。十方世界の無量無辺不可思議の諸仏如来、彼を称歎せざることなし。東方恒沙の仏国の無量無数のもろもろの菩薩衆、みなことごとく無量寿仏の所に往詣して、恭敬し供養してもろもろの菩薩声聞大衆に及ぼさん。経法を聴受し道化を宣布す。南西北方・四維・上下、またまたかくのごとし。」74その時、世尊、頌を説きて曰わく、

東方諸仏の国、その数恒沙のごとし。

かの土の菩薩衆、往いて無量覚を覩たてまつる。

南西北・四維・上下、またまた然なり。

かの土の菩薩衆、往いて無量覚を覩たてまつる。

一切のもろもろの菩薩、おのおの天の妙華・

宝香・無価の衣をもって、無量覚を供養したてまつる。

咸然として天の楽を奏し、和雅の音を暢発し、

最勝の尊を歌歎し、無量覚を供養したてまつる。

神通と慧とを究達して、深法門を遊入し、

功徳蔵を具足し、妙智等倫なし。

慧日、世間を照らして、生死の雲を消除す。

恭敬して繞ること三して、無上尊を稽首したてまつる。

かの厳浄の土の、微妙にして思議し難きを見て、

因りて無上心を発して、我が国もまた然らんと願ず。

時に応じて無量尊、容を動かして欣笑を発し、

口より無数の光を出だして、遍く十方国を照らす。

回る光、身を囲繞すること、三帀して頂より入る。

一切の天人衆、踊躍してみな歓喜せん。

大士観世音、服を整え稽首して問うて、

仏に白さく、「何に縁りてか笑みたまえる。唯然なり。願

わくは意を説きたまえ。」

梵の声、雷の震うがごとし。八音妙響を暢べて、

「当に菩薩に記を授くべし。今説かん、なんじ、諦に聴け。

十方より来れる正士、吾、ことごとくかの願いを知る。

厳浄の土を志求し、受決して当に作仏すべし。

一切の法は、猶し夢・幻・響のごとしと覚了すれども、

もろもろの妙願を満足して、必ずかくのごときの刹を成ぜん。

法は電影のごとくなりと知れども、菩薩の道を究竟し、

もろもろの功徳の本を具して、受決して当に作仏すべし。

諸法の性は、一切空無我なりと通達すれども、

専ら浄仏土を求めて、必ずかくのごときの刹を成ぜん。」

諸仏、菩薩に告げて、安養の仏を覩せしむ。

法を聞き楽しみて受行して、疾く清浄の処を得よ。

かの厳浄の国に至りなば、すなわち速やかに神通を得、

必ず無量尊において、記を受けて等覚を成らん。

その仏の本願の力、名を聞いて往生せんと欲えば、

みなことごとくかの国に到りて、自ずから不退転に致る。

菩薩、至願を興して、己が国も異なることなからんと願ず。

普く一切を度せんと念いて、名、顕らかに十方に達せん。

億の如来に奉事し、飛化して諸刹に遍じ、

恭敬し歓喜して去いて、還りて安養国に到らん。

もし人、善本なければ、この経を聞くことを得ず。

清浄に戒を有てる者、いまし正法を聞くことを獲。

むかし、さらに世尊を見たてまつるもの、すなわち能くこの事を信ぜん。

謙敬して聞きて奉行し、踊躍して大きに歓喜せん。

憍慢と蔽と懈怠とは、もってこの法を信じ難し。

宿世に諸仏を見たてまつれば、楽んでかくのごときの教を聴かん。

声聞あるいは菩薩、能く聖心を究むるものなし。

たとえば生まれて盲いたるもの、行いて人を開導せんと欲うがごとし。

如来の智慧海は、深広にして涯底なし。

二乗の測るところにあらず。唯仏のみ独り明らかに了りたまえり。

たとい一切人、具足してみな道を得て、

浄慧、本空を知らん。億劫に仏智を思いて、

力を窮め、極めて講説して、寿を尽くすともなお知らじ、

仏慧の辺際なきことを。かくのごとくして清浄に致る。

寿命は甚だ得難し。仏世また値い難し。

人、信慧あること難し。もし聞かば精進して求めよ。

法を聞きて能く忘れず、見て敬い得て大きに慶べば、

すなわち我が善き親友なり。このゆえに当に意を発すべし。

たとい世界に満てらん火をも、必ず過ぎて要めて法を聞かば、

会ず当に仏道を成ずべし、広く生死の流を度せん。

75仏、阿難に告げたまわく、「かの国の菩薩は、みな当に一生補処を究竟すべし。その本願、衆生のためのゆえに、弘誓の功徳をもって自ら荘厳し、普く一切衆生を度脱せんと欲わんをば除く。

76阿難、かの仏国の中のもろもろの声聞衆の身光、一尋なり。菩薩の光明、百由旬を照らす。二の菩薩あり。最尊第一なり。威神の光明、普く三千大千世界を照らす。」阿難、仏に白さく、「かの二の菩薩、その号云何。」仏の言わく、「一をば観世音と名づく。二をば大勢至と名づく。この二の菩薩はこの国土にして菩薩の行を修す。命終して転化して、かの仏国に生ぜり。77阿難、それ衆生ありてかの国に生まるれば、みなことごとく三十二相を具足す。

78智慧成満して深く諸法に入る。要妙を究暢す。神通無碍にして諸根明利なり。その鈍根の者は二忍を成就す。その利根の者は不可計の無生法忍を得。79またかの菩薩、乃至成仏まで悪趣に更らず。神通自在にして常に宿命を識らん。他方の五濁悪世に生じて、示現して彼に同じ、我が国のごとくせんをば除く。」

80仏、阿難に告げたまわく、「かの国の菩薩は、仏の威神を承けて、一食の頃に十方無量の世界に往詣して、諸仏世尊を恭敬し供養せん。心の所念に随いて、華香・伎楽・繒蓋・幢幡、無数無量の供養の具、自然に化生して念に応じてすなわち至らん。珍妙・殊特にして、世のあるところにあらず。すなわちもって諸仏・菩薩・声聞大衆に奉散せん。虚空の中にありて、化して華蓋と成る。光色昱爍して香気普く熏ず。その華、周円、四百里なるものなり。かくのごとく転た倍してすなわち三千大千世界に覆えり。その前後に随いて、次いでもって化没す。そのもろもろの菩薩、僉然として欣悦す。虚空の中において共に天の楽を奏す。微妙の音をもって仏徳を歌歎す。経法を聴受して歓喜すること無量なり。仏を供養すること已りて未だ食せざる前に、忽然として軽挙してその本国に還る。」

81仏、阿難に語りたまわく、「無量寿仏、もろもろの声聞・菩薩大衆のために法を班宣したまう時、すべてことごとく七宝講堂に集会して、広く道教を宣べ妙法を演暢したまう。歓喜せざることなし。心に解り道を得、すなわちの時に四方より自然に風起ちて、普く宝樹を吹くに五つの音声を出だす。無量の妙華を雨らして、風に随いて周遍す。自然に供養せん。かくのごとくして絶えずして、一切の諸天、みな天上の百千の華香・万種の伎楽をもって、その仏およびもろもろの菩薩・声聞大衆を供養したまう。普く華香を散じて、もろもろの音楽を奏し、前後に来往してかわるがわる相開避す。この時に当りて、熈怡快楽勝げて言うべからず。」

82仏、阿難に語りたまわく、「かの仏国に生ずるもろもろの菩薩等は、講説すべきところには常に正法を宣べ、智慧に随順して違なく失なし。83その国土の所有の万物において、我所の心なし。染着の心なし。去来進止、情に係くるところなし。意に随いて自在なり。適莫するところなし。彼なく我なし。競なく訟なし。もろもろの衆生において大慈悲・饒益の心を得たり。柔軟・調伏にして、忿恨の心なし。離蓋清浄にして厭怠の心なし。等心、勝心、深心、定心、愛法・楽法・喜法の心のみなり。もろもろの煩悩を滅し、悪趣を離るる心のみなり。

84一切の菩薩の所行を究竟して、無量の功徳を具足し成就せり。

85深禅定・もろもろの通・明・慧を得て、志を七覚に遊ばしめ、心に仏法を修す。肉眼清徹にして分了せざることなし。天眼通達して無量無限なり。法眼観察して諸道に究竟せり。慧眼真を見て能く彼岸に度す。仏眼具足して法性を覚了す。無碍の智をもって人のために演説す。等しく三界を観わして、空にして所有なし。仏法を志求し、もろもろの弁才を具し、衆生の煩悩の患えを除滅す。如より来生して法の如如を解り、善く習滅の音声の方便を知りて、世語を欣ばず。楽いて正論にあり。もろもろの善本を修し、志、仏道を崇がん。一切の法はみなことごとく寂滅なりと知りて、生身煩悩の二つの余、倶さに尽くせり。甚深の法を聞き心に疑懼せず。常に能くその大悲を修行せる者なり。深遠微妙にして覆載せざることなし。一乗を究竟して彼岸に至る。疑網を決断して、慧、心に由りて出ず。仏の教法において該羅して外なし。86智慧、大海のごとし。三昧、山王のごとし。慧光、明浄にして日月に超逾せり。清白の法、具足し円満すること、猶し雪山のごとし、もろもろの功徳を照らすこと等一にして浄きがゆえに。猶し大地のごとし、浄穢・好悪、異心なきがゆえに。猶し浄水のごとし、塵労もろもろの垢染を洗除するがゆえに。猶し火王のごとし、一切の煩悩の薪を焼滅するがゆえに。猶し大風のごとし、もろもろの世界に行じて障碍なきがゆえに。猶し虚空のごとし、一切の有において所着なきがゆえに。猶し蓮華のごとし、もろもろの世間において汚染なきがゆえに。87猶し大乗のごとし、群萠を運載して生死を出だすがゆえに。猶し重雲のごとし、大法の雷を震いて未覚を覚すがゆえに。猶し大雨のごとし、甘露の法を雨らして衆生を潤すがゆえに。金剛山のごとし、衆魔外道動ずること能わざるがゆえに。梵天王のごとし、もろもろの善法において最上首なるがゆえに。尼拘類樹のごとし、普く一切を覆うがゆえに。優曇鉢華のごとし、希有にして遇い難きがゆえに。金翅鳥のごとし、外道を威伏するがゆえに。もろもろの遊禽のごとし、蔵積するところなきがゆえに。猶し牛王のごとし、能く勝つものなきがゆえに。猶し象王のごとし、善く調伏するがゆえに。師子王のごとし、畏るるところなきがゆえに。曠きこと虚空のごとし、大慈等しきがゆえに。88嫉心を摧滅せり、勝るを忌まざるがゆえに。専ら法を楽求して心に厭足なし。常に広説を欲い、志疲倦なし。法鼓を撃き、法幢を建て、慧日を曜かし、痴闇を除く。六和敬を修し常に法施を行ず。志勇精進にして、心、退弱せず。世の燈明と為りて最勝の福田なり。常に導師と為りて等しく憎愛なし。唯正道を楽いて余の欣戚なし。もろもろの欲刺を抜きて、もって群生を安くす。功慧殊勝にして尊敬せざることなし。三垢の障りを滅し、もろもろの神通に遊ぶ。因力・縁力・意力・願力・方便の力、常力・善力・定力・慧力・多聞の力、施・戒・忍辱・精進・禅定・智慧の力、正念・正観・もろもろの通・明の力、法のごとくもろもろの衆生を調伏する力、かくのごときらの力、一切具足せり。

89身色・相好・功徳・弁才、具足し荘厳す。与に等しき者なし。無量の諸仏を恭敬し供養して常に諸仏のために共に称歎せらる。菩薩の諸波羅蜜を究竟し、空・無相・無願三昧、不生不滅もろもろの三昧門を修す。声聞・縁覚の地を遠離せり。阿難、かのもろもろの菩薩、かくのごときの無量の功徳を成就せり。我ただ汝がために略してこれを説くならくのみ。もし広く説かば、百千万劫に窮尽すること能わじ。」

90仏、弥勒菩薩・もろもろの天人等に告げたまわく、「無量寿国の声聞・菩薩、功徳・智慧称説すべからず。またその国土は微妙・安楽にして清浄なることかくのごとし。91何ぞ力めて善をなして、道の自然なることを念いて、上下なく洞達して辺際なきことを著さざらん。宜しくおのおの勤めて精進して、努力自らこれを求むべし。必ず超絶して去ることを得て、安養国に往生せよ。横に五悪趣を截りて、悪趣自然に閉じん。道に昇ること窮極なし。往き易くして人なし。その国逆違せず。自然の牽くところなり。何ぞ世事を棄てて勤行して道徳を求めざらん。極長生を獲べし。寿楽極まりあることなし。

92然るに世人、薄俗にして共に不急の事を諍う。この劇悪極苦の中において身の営務を勤めて、もって自ら給済す。尊もなく卑もなし。貧もなく富もなし。少長男女共に銭財を憂う。有無同然なり。憂思適に等し。屏営愁苦して、念いを累ね慮りを積みて、心のために走せ使いて、安き時あることなし。田あれば田を憂う。宅あれば宅を憂う。牛馬六畜・奴婢・銭財・衣食・什物、また共にこれを憂う。思いを重ね息を累みて、憂念を愁怖す。横に非常の水火・盗賊・怨家・債主のために焚漂劫奪せられ消散し摩滅す。憂毒忪忪として解くる時あることなし。憤りを心中に結びて憂悩を離れず。心堅く意固く、適に縦捨することなし。あるいは摧砕に坐して、身亡び寿終われば、これを棄捐して去りぬ。誰も随う者なし。尊貴豪富もまたこの患えあり。憂懼万端にして勤苦かくのごとし。もろもろの寒熱を結びて痛みと共に居す。貧窮下劣にして困乏して常に無けたり。田なければまた憂えて田あらんと欲う。宅なければまた憂えて宅あらんと欲う。牛馬六畜・奴婢・銭財・衣食・什物なければ、また憂えてこれあらんと欲う。適一つあればまた一つ少けぬ。これあればこれ少けぬ。斉等にあらんことを思う。適具さにあらんと欲えば、すなわちまた糜散しぬ。かくのごとく憂苦して当にまた求索すれども、時に得ること能わず。思想して益なし。身心倶に労れて坐起安からず。憂念相随いて勤苦かくのごとし。またもろもろの寒熱を結びて痛みと共に居す。ある時はこれに坐して、身を終え命を夭ぼす。肯て善をなし道を行じ徳に進まず。寿終え身死して当に独り遠く去る。趣向するところあれども、善悪の道能く知る者なし。

93世間の人民、父子・兄弟・夫婦・室家・中外の親属、当に相敬愛して相憎嫉することなかるべし。有無相通じて貪惜を得ることなかれ。言色常に和して相違戻することなかれ。ある時には心に諍いて恚怒するところあり。今世の恨みの意、微し相憎嫉すれば、後世には転た劇しく大怨と成るに至る。所以は何んとなれば、世間の事かわるがわる相患害す。すなわちの時に急やかに相破すべからずといえども、然も毒を含み怒りを畜え憤りを精進に結びて、自然に剋識して相離るることを得ず、みな当に対生してかわるがわる相報復すべし。人、世間の愛欲の中にありて、独り生じ独り死し独り去り独り来りて、行に当り苦楽の地に至り趣く。身、自らこれを当くるに、有も代わる者なし。善悪変化して殃福処異なり、宿予、厳待して当に独り趣入すべし。遠く他所に到りぬれば、能く見る者なし。善悪自然にして行を追うて生ずるところなり。窈窈冥冥として別離久しく長し。道路同じからずして会い見ること期なし。甚だ難し、甚だ難し。また相値うことを得んや。何ぞ衆事を棄てざらん。おのおの強健の時に曼んで努力修善を勤めて精進して度世を願え。極めて長生を得べし。如何ぞ道を求めざらん。安所ぞ待つべき。何の楽しみをか欲わんや。

94かくのごとく世人、善を作して善を得、道を為して道を得ることを信ぜず。人、死して更りて生まれ、恵施して福を得ることを信ぜず。善悪の事、すべてこれを信ぜず。これを然らずと謂えり。終に是することあることなし。但これを坐するゆえに、且つ自らこれを見れば、かわるがわる相瞻視して先後同じく然なり。転た相承受するに、父、教令を余す。先人・祖父素より善を為さず。道徳を識らず。身愚かに神闇く、心塞り意閉じて、死生の趣、善悪の道、自ら見ること能わず。語る者あることなし。吉凶禍福、競いておのおのこれを作す。一も怪しむものなきなり。生死の常の道、転た相嗣ぎ立つ。あるいは父は子を哭し、あるいは子、父を哭す。兄弟・夫婦、かわるがわる相哭泣す。顛倒上下して無常の根本なり。みな過去に当く。常に保つべからず。教語開導すれどもこれを信ずる者は少なし。ここをもって生死流転し、休止することあることなし。かくのごときの人、曚冥抵突して経法を信ぜず。心に遠き慮りなし。おのおの意を快くせんと欲えり。愛欲に痴惑せられて道徳を達らず。瞋怒に迷没して財色を貪狼す。これに坐して道を得ず。当に悪趣の苦に更るべし。生死窮まり已むことなし。哀れなるかな。甚だ傷むべし。ある時は室家・父子・兄弟・夫婦、一は死し一は生ず。かわるがわる相哀愍す。恩愛思慕して憂念結縛す。心意痛着して迭いに相顧恋す。日を窮め歳を卒えて解け已むことあることなし。道徳を教語するに心開明ならず。恩好を思想して情欲を離れず。昏曚閉塞して愚惑に覆われたり。深く思い熟ら計らい、心自ら端正にして専精に道を行じて世事を決断すること能わず。すなわち旋り、竟りに至る。年寿終わり尽きぬれば道を得ること能わず。奈何とすべきことなし。総猥憒擾してみな愛欲を貪る。道に惑える者は衆く、これを悟る者は寡し。世間悤悤として憀頼すべきことなし。尊卑・上下・貧富・貴賎、勤苦悤務しておのおの殺毒を懐く。悪気窈冥してために妄りに事を興す。天地に違逆して人の心に従わず。自然の非悪、先ず随いてこれを与う。恣に所為を聴してその罪の極まるを待つ。その寿未だ尽きざるに、すなわち頓にこれを奪う。悪道に下り入りて、累世に勤苦す。その中に展転して数千億劫なり。出ずる期あることなし。痛み言うべからず。甚だ哀愍すべし。」

95仏、弥勒菩薩・諸天人等に告げたまわく、「我今、汝に世間の事を語る。人これをもってのゆえに、坐して道を得ず。当に熟ら思い計りて衆悪を遠離すべし。その善の者を択んで勤めてこれを行ぜよ。愛欲栄華常に保つべからず。みな当に別離すべし。楽しむべき者なし。仏の在世に曼い当に勤めて精進すべし。それ心を至して安楽国に生まれんと願ずることある者は智慧明達し功徳殊勝なることを得べし。心の所欲に随いて経戒を虧負して人の後にあることを得ることなかれ。もし疑いの意ありて経を解らざる者は、具さに仏に問いたてまつるべし。当にためにこれを説くべし。」

96弥勒菩薩、長跪して白して言わく、「仏は威神尊重にして、説きたまうところ、快く善し。仏の経語を聴きたまえて、心に貫きてこれを思うに、世人実に爾なり。仏の言うところのごとし。今仏、慈愍して大道を顕示したまうに、耳目開明して長く度脱を得つ。仏の所説を聞きて歓喜せざることなし。諸天人民蠕動の類、みな慈恩を蒙りて憂苦を解脱せしむ。仏語の教誡、甚だ深く甚だ善し。智慧明らかに八方・上下・去来今の事を見わして、究め暢べたまわざることなし。今我、衆等、度脱を得ること蒙る所以は、みな仏の前世に道を求めしの時、謙苦せしが致すところなり。恩徳普く覆いて福祿巍巍として光明徹照す。空に達せること極まりなし。泥洹に開入して典攬に教授し威制消化す。十方に感動すること無窮無極なり。仏は法王として、尊きこと衆聖に超えたまえり。普く一切天人の師と為りて、心の所願に随いて、みな道を得せしめたまう。今仏に値うことを得て、また無量寿仏の声を聞きて歓喜せざるものなし。心開明することを得つ。」

97仏、弥勒菩薩に告げたまわく、「汝が言えること是なり。もし仏を慈敬することあらば実に大善なりとす。98天下に久久にして乃しまた仏まします。今我この世において仏と作りて、経法を演説し道教を宣布す。もろもろの疑網を断ち、愛欲の本を抜き、衆悪の源を杜ぐ。三界に遊歩するに拘碍するところなし。典攬の智慧、衆道の要なり。綱維を執持して昭然分明なり。五趣を開示し未度の者を度す。生死泥洹の道を決正したまう。弥勒、当に知るべし。汝、無数劫よりこのかた菩薩の行を修して衆生を度せんと欲う。それすでに久しく遠し。汝に従いて道を得て泥洹に至るもの称数すべからず。汝および十方の諸天人民、一切の四衆、永劫よりこのかた五道に展転して、憂畏勤苦具さに言うべからず。乃至今世まで生死絶えず。仏と相値うて経法を聴受し、またまた無量寿仏を聞くことを得たり。快きかな、甚だ善し。吾、爾を助けて喜ぶ。99汝今また自ら生死老病の痛苦を厭うべし。悪露不浄にして楽しむべき者なし。宜しく自ら決断して、身を端しくし行を正しくし、益すもろもろの善を作りて、己を修し体を潔くし心垢を洗除し、言行忠信あって表裏相応し、人能く自ら度して転た相拯済して、精明求願して善本を積累すべし。一世の勤苦は須臾の間なりといえども、後には無量寿仏の国に生じ、快楽極まりなし。長く道徳と合明にして、永く生死の根本を抜き、また貪・恚・愚痴・苦悩の患えなし。寿一劫百劫千万億劫ならんと欲えば、自在に意に随いてみなこれを得べし。無為自然にして泥洹の道に次し。汝等、宜しくおのおの精進して心の所願を求むべし。疑惑し中悔して自ら過咎を為して、かの辺地七宝の宮殿に生じて、五百歳の中にもろもろの厄を受くるを得ることなかれ。」100弥勒、仏に白して言さく、「仏の重誨を受けて専精に修学し、教えのごとく奉行して敢て疑いあらじ」と。

101仏、弥勒に告げたまわく、「汝等能くこの世にして、心を端しくし意を正しくして、衆悪を作らずは、甚だ至徳なりとす。十方世界に最も倫匹なけん。所以は何ん。諸仏の国土の天人の類は、自然に善を作して、大きに悪を為らずは、開化すべきこと易し。今我この世間において仏に作りて、五悪・五痛・五焼の中に処すること最も劇苦なりとす。群生を教化して、五悪を捨てしめ五痛を去けしめ五焼を離れしめ、その意を降化して、五善を持たしめて、その福徳、度世・長寿・泥洹の道を獲しめん」と。102仏の言わく、「何等か五悪、何等か五痛、何等か五焼、何等か五悪を消化して、五善を持たしめて、その福徳、度世・長寿・泥洹の道を獲しむる」と。

103仏の言わく、「その一つの悪というは、諸天人民蠕動の類、衆悪を為らんと欲えり。みな然らざるはなし。強き者は弱きを伏す。転た相剋賊し残害殺戮してして迭いに相呑噬す。善を修することを知らず。悪逆無道にして後に殃罰を受く。自然に趣向して神明記識す。犯せる者を赦さず。かるがゆえに貧窮・下賎・乞匃・孤独・聾盲瘖瘂・愚痴・弊悪のものあり。尩・狂・不逮の属あるに至る。また尊貴・豪富・高才・明達なるあり。みな宿世に慈孝ありて善を修し徳を積みて致すところなるに由りてなり。世の常の道、王法の牢獄あり。肯て畏れ慎まず。悪を為して罪に入りてその殃罰を受く。解脱を求望すれども免出を得ること難し。世間にこの目の前の見の事あり。寿終わりて後世に尤も深く尤も劇しくして、その幽冥に入りて生を転じて身を受く。たとえば王法の痛苦、極刑なるがごとし。かるがゆえに自然の三塗無量の苦悩あり。転たその身を貿え形を改め道を易えて、受くるところの寿命、あるいは長くあるいは短し。魂神精識、自然にこれに趣く。当に独り値い向かい、相従いて共に生まれて、更りて相報復すべし。絶え已ることあることなし。殃悪未だ尽きざれば相離るることを得ず。その中に展転して出ずる期あることなし。解脱を得難し。痛み言うべからず。天地の間に自然にこれあり。即時に卒暴に善悪の道に至るべからずといえども、会ず当にこれに帰すべし。これを一つの大悪、一痛、一焼とす。勤苦かくのごとし。たとえば大火の、人の身を焚焼するがごとし。人、能く中にして心を一つにして意を制し身を端しくし行を正しくして、独りもろもろの善を作りて衆悪を為らざれば、身独り度脱して、その福徳、度世・上天・泥洹の道を獲ん。これを一つの大善とするなり。」

104仏の言わく、「その二つの悪というは、世間の人民、父子・兄弟・室家・夫婦、すべて義理なくして法度に順ぜず。奢婬 憍縦しておのおの意を快くせんと欲えり。心に任せて自ら恣にかわるがわる相欺惑す。心口おのおの異に、言念実なし。佞諂不忠にして巧言諛媚なり。賢を嫉み善を謗りて怨枉に陥し入る。主上、明らかならずして臣下を任用す。臣下、自在にして機偽端多し。度を践みて能く行いてその形勢を知る。位にありて正しからざれば、それがために欺かる。妄りに忠良を損じて天の心に当たらず。臣はその君を欺き、子はその父を欺く。兄弟・夫婦・中外知識、かわるがわる相欺誑す。おのおの貪欲・瞋恚・愚痴を懐きて自ら己を厚くせんと欲えり。多くあることを欲貪す。尊卑上下、心倶に同じく然なり。家を破り身を亡じて前後を顧みず。親属・内外これに坐して滅ぶ。ある時は室家・知識・郷党・市里・愚民・野人、転た共に事に従いて更いに相利害す。忿り怨結と成り、あるに富みて慳惜す。肯て施与せず。愛宝貪重にして、心労し身苦しくす。かくのごとくして竟りに至りて恃怙するところなし。独り来り独り去りて、一も随う者なけん。善悪・禍福、命を追いて生ずるところなり。あるいは楽処にあり、あるいは苦毒に入る。然るに後に乃し悔ゆとも当にまた何ぞ及ぶべき。世間の人民、心愚かにして智少し。善を見ては憎謗し、慕い及ぶことを思わず。但し悪を為さんと欲うて妄りに非法を作す。常に盗心を懐きて他の利を悕望す。消散し糜尽してまた求索す。邪心にして正しからず。人の色ることあるを懼る。予め思い計らず。事至りて乃し悔ゆ。今世に現に王法の牢獄あり。罪に随いて趣向してその殃罰を受く。その前世に道徳を信ぜず、善本を修せざるに因りて今また悪を為れば、天神剋識してその名藉を別つ。寿終わり神逝きて悪道に下り入る。かるがゆえに自然の三塗無量の苦悩あり。その中に展転して世世累劫に出ずる期あることなし。解脱を得難し。痛み言うべからず。これを二つの大悪、二つの痛、二つの焼とす。勤苦かくのごとし。たとえば大火の、人の身を焚焼するがごとし。人、能く中にして心を一つにし意を制し、身を端しくし行を正しくして、独りもろもろの善を作りて衆悪を為らざれば、身独り度脱して、その福徳、度世・上天・泥洹の道を獲。これを二つの大善とするなり。」

105仏の言わく、「その三つの悪というは、世間の人民、相因り寄り生じて共に天地の間に居す。処年寿命能く幾何なることなし。上に賢明・長者・尊貴・豪富あり。下に貧窮・廝賎・尩劣・愚夫あり。中に不善の人ありて、常に邪悪を懐けり。但し婬妷を念いて煩い胸の中に満てり。愛欲交乱して坐起安からず。貪意守惜して但し唐らに得んことを欲う。細色を眄睞して邪態外に逸に、自らが妻を厭い憎みて、私かに妄りに入出す。家財を費損して、事非法を為す。交結聚会して師を興して相伐つ。攻劫殺戮して強く奪いて不道なり。悪心外きにありて自ら業を修せず。盗竊して趣かに得て、事を繫成せんと欲う。恐熱迫愶して妻子に帰給す。心を恣に意を快くす。身を極めて楽しみを作す。あるいは親属にして尊卑を避らず。家室・中外、患えてこれを苦しむ。また王法の禁令をも畏れず。かくのごときの悪、人鬼に著さる。日月も照見し神明記識す。かるがゆえに自然の三塗無量の苦悩あり。その中に展転して世世累劫に出ずる期あることなし。解脱を得難し。痛み言うべからず。これを三つの大悪、三つの痛、三つの焼とす。勤苦かくのごとし。たとえば大火の、人の身を焚焼するがごとし。人、能く中にして心を一つにし意を制し、身を端しくし行を正しくして、独りもろもろの善を作りて衆悪を為らざれば、身独り度脱して、その福徳、度世・上天・泥洹の道を獲。これを三つの大善とするなり。」

106仏の言わく、「その四つの悪というは、世間の人民、善を修せんと念わず。転た相教令して共に衆悪を為す。両舌・悪口・妄言・綺語・讒賊・闘乱す。善人を憎嫉し賢明を敗壊す。傍にして快喜して二親に孝せず。師長を軽慢し朋友に信なくして誠実を得難し。尊貴自大にして己道ありと謂えり。横に威勢を行じて人を侵易す。自ら知ること能わず。悪を為りて恥ずることなし。自ら強健なるをもって人の敬難を欲えり。天・地・神明・日・月に畏れず。肯て善を作らず。降化すべきこと難し。自らもって偃蹇して常に爾るべしと謂えり。憂懼するところなし。常に憍慢を懐けり。かくのごときの衆悪、天神記識す。その前世に頗る福徳を作ししに頼りて、小善扶接し営護してこれを助く。今世に悪を為りて福徳尽滅しぬれば、もろもろの善鬼神おのおの共にこれを離る。身独り空しく立ちてまた依るところなし。寿命終わり尽きて諸悪の帰するところなり。自然に迫促して共にこれに趣き頓るべし。またその名籍を記して神明にあり。殃苦牽引して当に往り趣向すべし。罪報自然にして捨離する従なし。但し前の行に得りて火鑊に入る。身心摧砕して精神痛苦す。この時に当たりて悔ゆともまた何ぞ及ばん。天道自然にして蹉跌を得ず。かるがゆえに自然の三塗無量の苦悩あり。その中に展転して世世累劫に出ずる期あることなし。解脱を得難し。痛み言うべからず。これを四つの大悪、四つの痛、四つの焼とす。勤苦かくのごとし。たとえば大火の、人の身を焚焼するがごとし。人、能く中にして心を一つにし意を制し、身を端しくし行を正しくして、独りもろもろの善を作りて衆悪を為らざれば、身独り度脱して、その福徳、度世・上天・泥洹の道を獲。これを四つの大善とするなり。」

107仏の言わく、「その五つの悪というは、世間の人民、徙倚懈惰にして肯て善を作らず。身を治め業を修して、家室・眷属、飢寒困苦す。父母教誨して、目を瞋らし譍を怒らして言令和かならずして、違戻反逆す。たとえば怨家のごとき、子なきには如かず。取与節なくしてすべて共に患え厭う。恩を負き義に違して、報償の心あることなし。貧窮困乏にしてまた得ること能わず。辜較縦奪して放恣遊散す。串数して唐らに得て、もって自ら賑給す。酒に耽り美きに嗜みて、飲食度なし。心を肆に蕩逸して魯扈抵突たり。人の情を識らず。強いて抑制せんと欲う。人の善あるを見て憎嫉してこれを悪む。義なく礼なくして顧難するところなし。自らもって職当して諌暁すべからず。六親眷属の所資、有無、憂念すること能わず。父母の恩を惟わず。師友の義を存せず。心に常に悪を念い、口に常に悪を言い、身に常に悪を行じて、曾て一善なし。先聖・諸仏の経法を信ぜず。道を行じて度世を得べきことを信ぜず。死して後に神明更りて生ずと信ぜず。善を作りて善を得、悪を為りて悪を得と信ぜず。真人を殺し衆僧を闘乱せんと欲い、父母・兄弟・眷属を害せんと欲う。六親憎み悪みて、それをして死せしめんと願う。かくのごときの世人、心・意倶に然なり。愚痴矇昧にして自ら智慧ありと以うて、生じて従来するところ、死して趣向するところを知らず。仁ならず順ならず。天地に悪逆してその中にして悕望僥倖す。長き生を求めんと欲うに、会ず当に死に帰すべし。慈心教誨してそれをして善を念ぜしむ。生死・善悪の趣き自然にこれあることを開示すれども、肯てこれを信ぜず。苦心に与に語れども、その人に益なし。心中閉塞して意開解せず。大命将に終わらんとするに、悔懼交わり至る。予め善を修せず。窮まるに臨みて方に悔ゆ。これを後に悔ゆるに将に何ぞ及ばんや。天地の間に五道分明なり。恢廓窈窕として浩浩茫茫たり。善悪報応し禍福相承けて、身自らこれを当く。誰も代わる者なし。数りの自然なるなり。その所行に応いて殃苦命を追いて縦捨を得ることなし。善人は善を行じて、楽より楽に入り明より明に入る。悪人は悪を行じて、苦より苦に入り冥より冥に入る。誰か能く知れる者。独り仏のみ知ろしめせりまくのみ。教語開示すれども信用する者は少なし。生死休まず。悪道絶えず。かくのごときの世人、具さに尽くすべきこと難し。かるがゆえに自然の三塗無量の苦悩あり。その中に展転して世世累劫に出ずる期あることなし。解脱を得難し。痛み言うべからず。これを五つの大悪、五つの痛、五つの焼とす。勤苦かくのごとし。たとえば大火の、人の身を焚焼するがごとし。人、能く中にして心を一つにし意を制し、身を端しくし念を正しくし、言行相副い、作すところ誠を至す。語るところ語のごとく、心口転ぜずして、独りもろもろの善を作りて衆悪を為らざれば、身独り度脱して、その福徳、度世・上天・泥洹の道を獲。これを五つの大善とするなり。」

108仏、弥勒に告げたまわく、「吾、汝等に語る。この世の五悪、勤苦かくのごとし。五痛、五焼、展転して相生ず。但し衆悪を作して善本を修せず。みなことごとく自然にもろもろの悪趣に入る。あるいはその今世に先ず殃病を被りて、死を求むるに得ず。生を求むるに得ず。罪悪の招くところ、衆に示してこれを見せしむ。身死して行に随いて三悪道に入りて、苦毒無量なり。自ら相燋然す。その久しくして後、共に怨結を作すに至りて、小微より起こりて遂に大悪と成る。みな財色に貪着して施恵すること能わざるに由りてなり。痴欲に迫められて心に随いて思想す。煩悩結縛して解け已ることあることなし。己を厚くし利を諍いて省録するところなし。富貴栄華、時に当たりて意を快くす。忍辱すること能わず。務めて善を修せず。威勢幾くもなくして随いてもって磨滅す。身労苦に坐して、久しくして後、大きに劇し。天道施張して自然に糺挙す。綱紀羅網上下相応す。煢煢忪忪として当にその中に入るべし。古今にもこれあり。痛ましきかな、傷むべし。」109仏、弥勒に語りたまわく、「世間かくのごとし。仏みなこれを哀みたまいて、威神力をもって、衆悪を摧滅してことごとく善に就けしめたまう。所思を棄捐し経戒を奉持し、道法を受行して違失するところなし。終に度世・泥洹の道を得。」110仏の言わく、「汝、いま諸天人民および後世の人、仏の経語を得て当に熟らこれを思いて、能くその中にして心を端しくし行を正しくすべし。主上、善を為してその下を率化し、転た相勅令して、おのおの自ら端しく尊聖を守りて善を敬い、仁慈博愛して、仏語の教誨、敢て虧負することなし。当に度世を求めて生死衆悪の本を抜断すべし。当に三塗無量憂畏苦痛の道を離るべし。111汝等、ここに広く徳本を植え恩を布き恵を施して、道禁を犯すことなかれ。忍辱精進にして心を一つにし智慧をもって転た相教化して、徳を為し善を立てて、心を正しくし意を正しくして、斎戒清浄なること一日一夜すれば、無量寿国にありて善を為すこと百歳せんに勝れたり。所以は何ん。かの仏国土は無為自然にして、みなもろもろの善を積みて毛髪の悪なければなり。ここにして善を修すること十日十夜せんは、他方の諸仏の国土にして善を為すこと千歳せんには勝らん。所以は何ん。他方の仏国は善を為す者は多く、悪を為る者は少なし。福徳自然にして造悪の地なければなり。ただこの間に悪多くして、自然なることあることなし。勤苦して求欲す。転た相欺紿して、心労し形困しくして、苦を飲み毒を食う。かくのごとく悤務して未だ甞にもむしろ息まず。112吾、汝等、天・人の類を哀みて苦心に誨喩して教えて善を修せしむ。器に随いて開導して経法を授与するに、承用せざることなし。意の所願にありてみな道を得しむ。仏の遊履したまうところの国邑丘聚、化を蒙らざるはなし。天下和順し日月清明にして、風雨時をもってし災厲起こらず。国豊かに民安し。兵戈用いることなし。徳を崇め仁を興し、務礼譲を修す。」仏の言わく、「我、汝等諸天人民を哀愍すること父母の子を念うよりも甚だし。今我この世間において作仏して、五悪を降化し五痛を消除し五焼を絶滅す。善をもって悪を改め、生死の苦を抜きて五徳を獲、無為の安に昇らしめん。吾世を去りて後、経道漸く滅し人民諂偽ならん。また衆悪を為らん。五焼・五痛、還りて前の法のごとくならん。久しくして後、転た劇しからん。ことごとく説くべからず。我但し汝がために略してこれを言うまくのみ」と。仏、弥勒に語りたまわく、「汝等おのおの善くこれを思いて転た相教誡す。仏の経法のごとくして犯すこと得ることなかれ」と。113ここに弥勒菩薩、掌を合わせて白して言さく、「仏の所説甚だ苦なり。世人実に爾なり。如来、普く慈みて哀愍して、ことごとく度脱せしむ。仏の重誨を受けて敢て違失せざれ」と。

114仏、阿難に告げたまわく、「汝、起ちて更に衣服を整え合掌恭敬して、無量寿仏を礼したてまつるべし。十方国土の諸仏如来、常に共にかの仏の無着無碍にましますを称揚し讃歎したまう。」

115ここに阿難起ちて衣服を整え、身を正しくし面を西にして恭敬し合掌して五体を地に投げて、無量寿仏を礼したてまつりて白して言さく、「世尊、願わくは、かの仏・安楽国土およびもろもろの菩薩・声聞大衆を見たてまつらん」と。116この語を説き已りて、すなわちの時に無量寿仏、大光明を放ちて普く一切諸仏の世界を照らしたまう。金剛囲山・須弥山王・大小の諸山、一切所有みな同じく一色なり。たとえば劫水の世界に弥満せる、その中の万物、沈没して現ぜず。滉瀁浩汗として、唯大水を見るがごとし。かの仏の光明もまたまたかくのごとし。声聞・菩薩、一切の光明みなことごとく隠蔽して、唯仏の光の明曜顕赫なるを見たてまつる。117その時に阿難、すなわち無量寿仏の威徳巍巍として、須弥山王の高く一切のもろもろの世界の上に出でたるがごとくなるを見たてまつる。相好光明、照曜せざることなし。この会の四衆、一時にことごとく見たてまつる。彼にしてこの土を見ること、またまたかくのごとし。

118その時に仏、阿難および慈氏菩薩に告げたまわく、「汝、かの国を見るに、地より已上、浄居天に至るまで、その中の所有、微妙厳浄なる自然の物、ことごとく見るとやせん、いなや」と。阿難、対えて曰さく、「唯然なり。すでに見たまえつ」と。「汝むしろまた無量寿仏の大音、一切世界に宣布して衆生を化したまうを聞くや、いなや」と。阿難、対えて曰さく、「唯然なり。すでに聞きたまえつ」と。「かの国の人民、百千由旬の七宝の宮殿に乗じて障碍することあることなく、遍く十方に至りて諸仏を供養するを、汝また見るや、いなや」と。対えて曰さく、「すでに見たまえつ」と。「かの国の人民、胎生の者あり。汝また見るや、いなや。」と。対えて曰さく、「すでに見たまえつ」と。「その胎生の者の処するところの宮殿、あるいは百由旬、あるいは五百由旬なり。おのおのその中にしてもろもろの快楽を受くること、忉利天上のごとし。またみな自然なり」と。

119その時に慈氏菩薩、仏に白して言さく、「世尊、何の因、何の縁なれば、かの国の人民、胎生化生なる」と。120仏、慈氏に告げたまわく、「もし衆生ありて、疑惑の心をもってもろもろの功徳を修して、かの国に生ぜんと願ぜん。仏智・不思議智・不可称智・大乗広智・無等無倫最上勝智を了らずして、この諸智において疑惑して信ぜず。しかるに猶し罪福を信じ善本を修習してその国に生ぜんと願ぜん。このもろもろの衆生、かの宮殿に生まれて寿五百歳、常に仏を見たてまつらず。経法を聞かず。菩薩・声聞聖衆を見ず。このゆえにかの国土においてこれを胎生と謂う。

121もし衆生ありて、明らかに仏智、乃至、勝智を信じて、もろもろの功徳を作して信心回向せん。このもろもろの衆生、七宝華の中において自然に化生せん。跏趺して坐せん。須臾の頃に身相・光明・智慧・功徳、もろもろの菩薩のごとく具足し成就せん。

また次に慈氏、他方仏国のもろもろの大菩薩、発心して無量寿仏を見たてまつり、およびもろもろの菩薩・声聞の衆を恭敬し供養せんと欲わん。かの菩薩等、命終して無量寿国の七宝華の中に生まるることを得て自然に化生せん。122弥勒、当に知るべし。かの化生の者は智慧勝れたるがゆえに、その胎生の者はみな智慧なし。五百歳の中にして常に仏を見たてまつらず。経法を聞かず。菩薩・もろもろの声聞衆を見ず。仏を供養せんに由なし。菩薩の法式を知らず。功徳を修習することを得ず。当に知るべし、この人、宿世の時に智慧あることなくして疑惑せしが致すところなるなり。」

仏、弥勒に告げたまわく、「たとえば転輪聖王に別に七宝の宮室ありて、種種に荘厳し床帳を張設して、もろもろの繒幡を懸けたらんがごとし。もしもろもろの小王子ありて罪を王に得れば、すなわちかの宮中に内れて繫ぐに金鎖をもってせん。飲食・衣服・床褥・華香・妓楽を供給せんこと、転輪王のごとくして乏少するところなけん。意において云何ぞ。このもろもろの王子、むしろかの処を楽いてんや、いなや」と。対えて曰さく、「いななり。但種種の方便をしてもろもろの大力を求めて自ら免出せんと欲う」と。仏、弥勒に告げたまわく、「このもろもろの衆生もまたまたかくのごとし。仏智を疑惑するをもってのゆえに、かの宮殿に生まれて、刑罰、乃至、一念の悪事あることなし。但し五百歳の中において三宝を見たてまつらず。もろもろの善本を供養し修することを得ず。これをもって苦とす。余の楽しみありといえども、猶しかの処を楽わず。もしこの衆生、その本の罪を識りて深く自ら悔責してかの処を離れんと求めば、すなわち意のごとくなることを得て、無量寿仏の所に往詣して恭敬供養せん。また遍く無量無数の諸余の仏の所に至ることを得て、もろもろの功徳を修せん。弥勒、当に知るべし。それ菩薩ありて疑惑を生ずる者は大利を失すとす。このゆえに応当に明らかに諸仏無上の智慧を信ずべし」と。

123弥勒菩薩、仏に白して言さく、「世尊、この世界にして幾所の不退の菩薩ありてか、かの仏国に生ぜん」と。124仏、弥勒に告げたまわく、「この世界において六十七億の不退の菩薩ありて、かの国に往生せん。一一の菩薩、すでに曾て無数の諸仏を供養せるなり。次いで弥勒のごときの者なり。もろもろの小行の菩薩、および少功徳を修習せん者、称計すべからざる、みな当に往生すべし。」125仏、弥勒に告げたまわく、「但し我が刹のもろもろの菩薩等の、かの国に往生するのみにあらず。他方の仏土もまたまたかくのごとし。その第一の仏を名づけて遠照と曰う。彼に百八十億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第二の仏を名づけて宝蔵と曰う。彼に九十億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第三の仏を名づけて無量音と曰う。彼に二百二十億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第四の仏を名づけて甘露味と曰う。彼に二百五十億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第五の仏を名づけて龍勝と曰う。彼に十四億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第六の仏を名づけて勝力と曰う。彼に万四千の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第七の仏を名づけて師子と曰う。彼に五百億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第八の仏を名づけて離垢光と曰う。彼に八十億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第九の仏を名づけて徳首と曰う。彼に六十億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第十の仏を名づけて妙徳山と曰う。彼に六十億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第十一の仏を名づけて人王と曰う。彼に十億の菩薩あり。みな当に往生すべし。その第十二の仏を名づけて無上華と曰う。彼に無数不可称計のもろもろの菩薩衆あり。みな不退転にして智慧勇猛なり。すでに曾て無量の諸仏を供養したてまつりて、七日の中においてすなわち能く百千億劫の大士の所修、堅固の法を摂取せん。これらの菩薩、みな当に往生すべし。その第十三の仏を名づけて無畏と曰う。彼に七百九十億の大菩薩衆、もろもろの小菩薩および比丘等の称計すべからざるあり。みな当に往生すべし」と。126仏、弥勒に語りたまわく、「但しこの十四仏国の中のもろもろの菩薩等の当に往生すべきのみにあらざるなり。十方世界無量の仏国よりその往生する者、またまたかくのごとし。甚だ多く無数なり。我但し十方諸仏の名号、および菩薩・比丘のかの国に生ずる者を説かんに、昼夜一劫すとも尚未だ竟うること能わじ。我今、汝がために略してこれを説くまくのみ。」

127仏、弥勒に語りたまわく、「それ、かの仏の名号を聞くことを得て、歓喜踊躍して乃至一念することあらん。当に知るべし、この人は大利を得とす。すなわちこれ無上の功徳を具足するなり。

128このゆえに弥勒、たとい大火ありて三千大千世界に充満せんに、要ず当にこれを過ぎてこの経法を聞きて、歓喜信楽し、受持読誦し、説のごとく修行すべし。所以は何ん。多く菩薩ありてこの経を聞かんと欲えども得ること能わず。もし衆生ありてこの経を聞けば、無上道において終に退転せず。このゆえに応当に専心に信受し持誦し説行すべし。」129仏の言わく、「吾今もろもろの衆生のためにこの経法を説きて、無量寿仏およびその国土の一切所有を見せしむ。当に為すべきところの者はみなこれを求むべし。我が滅度の後をもってまた疑惑を生ずることを得ることなかれ。当来の世に経道滅尽せんに、我慈悲哀愍をもって特にこの経を留めて止住すること百歳せん。それ衆生ありてこの経に値う者は、意の所願に随いてみな得度すべし。」130仏、弥勒に語りたまわく、「如来の興世、値い難く見たてまつり難し。諸仏の経道、得難く聞き難し。菩薩の勝法、諸波羅蜜、聞くことを得ることまた難し。善知識に遇い、法を聞きて能く行ずること、これまた難しとす。もしこの経を聞きて信楽受持すること、難きが中に難し、これに過ぎて難きことなし。このゆえに我が法、かくのごとく作し、かくのごとく説き、かくのごとく教う。応当に信順して法のごとく修行すべし。」

131その時に世尊、この経法を説きたまうに、無量の衆生、みな無上正覚の心を発しき。132万二千那由他の人、清浄法眼を得き。二十二億の諸天人民、阿那含果を得き。八十万の比丘、漏尽意解り、四十億の菩薩、不退転を得、弘誓の功徳をもって自ら荘厳す。将来世において当に正覚を成るべし。その時に133三千大千世界、六種に震動す。大光普く十方国土を照らす。百千の音楽、自然にして作し、無量の妙華、粉粉として降る。134仏、経を説きたまうこと已りたまいしに、弥勒菩薩および十方来のもろもろの菩薩衆、長老阿難、諸大声聞、一切大衆、仏の所説を聞きたまえて歓喜せざるはなし。

仏説無量寿経巻下

 

無量寿経科文

 

1 序分

1.1 証信序

1.1.1 聞成就1

1.1.2 信成就2

1.1.3 時成就3

1.1.4 主成就4

1.1.5 処成就5

1.1.6 衆成就

1.1.6.1 列声聞衆6

1.1.6.2 列菩薩衆

1.1.6.2.1 総標7

1.1.6.2.2 列名8

1.1.6.2.3 嘆徳9

1.1.6.2.4 総結10

1.2 発起序

1.2.1 如来現端11

1.2.2 阿難発問12

1.2.3 如来審問13

1.2.4 阿難実答14

1.2.5 如来答問15

1.2.6 阿難楽問16

 

2 正宗分

2.1 広説如来浄土因果

2.1.1 明発勝因(勝因段)

2.1.1.1 明発願縁

2.1.1.1.1 明已過仏17

2.1.1.1.2 挙所値仏18

2.1.1.2 正明発願

2.1.1.2.1 明発心総願

2.1.1.2.1.1 正明発心相19

2.1.1.2.1.2 明嘆仏発願

2.1.1.2.1.2.1 明詣仏礼20

2.1.1.2.1.2.2 明以頌讃

2.1.1.2.1.2.2.1 標章21

2.1.1.2.1.2.2.2 偈頌(嘆仏偈)22

2.1.1.2.2 明選択別願

2.1.1.2.2.1 示選択相23

2.1.1.2.2.2 広明別願

2.1.1.2.2.2.1 明法蔵白仏24

2.1.1.2.2.2.2 明如来勧説25

2.1.1.2.2.2.3 法蔵説願

2.1.1.2.2.2.3.1 請聴察許説26

2.1.1.2.2.2.3.2 正説別願(願名別表)27

2.1.1.2.2.2.3.3 重誓感証

2.1.1.2.2.2.3.3.1 説頌立誓(重誓偈)28

2.1.1.2.2.2.3.3.2 現端証誠29

2.1.1.2.2.2.3.4 総括嘆発願30

2.1.2 明起勝行(勝行段)31

2.1.3 明起勝果(勝果段)32

2.1.4 明感勝報(勝報段)

2.1.4.1 略明

2.1.4.1.1 問答成仏33

2.1.4.1.2 兼明所居

2.1.4.1.2.1 明所有荘厳34

2.1.4.1.2.2 明所無穢相

2.1.4.1.2.2.1 正弁所無35

2.1.4.1.2.2.2 問答決疑36

2.1.4.2 広明

2.1.4.2.1 明仏報身体

2.1.4.2.1.1 光明無量

2.1.4.2.1.1.1 総嘆37

2.1.4.2.1.1.2 別嘆

2.1.4.2.1.1.2.1 挙諸仏劣38

2.1.4.2.1.1.2.2 挙弥陀勝39

2.1.4.2.1.2 寿命無量40

2.1.4.2.2 明大衆功徳

2.1.4.2.2.1 例顕寿量41

2.1.4.2.2.2 広明教量42

2.1.5 明感極楽(極楽段)

2.1.5.1 明事法荘厳

2.1.5.1.1 宝樹

2.1.5.1.1.1 広明諸樹

2.1.5.1.1.1.1 総明43

2.1.5.1.1.1.2 別明

2.1.5.1.1.1.2.1 列諸樹44

2.1.5.1.1.1.2.2 明行列45

2.1.5.1.1.1.2.3 明音声46

2.1.5.1.1.1.2 別明道場樹

2.1.5.1.1.1.2.1 明樹相47

2.1.5.1.1.1.2.2 示得益48

2.1.5.1.1.3 校量顕勝49

2.1.5.1.2 伎楽50

2.1.5.1.3 講堂51

2.1.5.1.4 宝池

2.1.5.1.4.1 明宝池相52

2.1.5.1.4.2 明水功徳

2.1.5.1.4.2.1 明資用無碍53

2.1.5.1.4.2.2 明水為仏事54

2.1.5.2 明人荘厳

2.1.5.2.1 略明55

2.1.5.2.2 広明

2.1.5.2.2.1 明正報勝

2.1.5.2.2.1.1 標涅槃大果56

2.1.5.2.2.1.2 明涅槃妙果

2.1.5.2.2.1.2.1 示所証平等57

2.1.5.2.2.1.2.2 明身体勝妙

2.1.5.2.2.1.2.2.1 正明58

2.1.5.2.2.1.2.2.2 比況59

2.1.5.2.2.2 明依報勝

2.1.5.2.2.2.1 明資具称形60

2.1.5.2.2.2.2 明衆宝応念61

2.1.5.2.2.2.3 明宝華布地62

2.1.5.2.2.2.4 明宝網弥覆63

2.1.5.2.2.2.5 明徳風吹動64

2.1.5.2.2.2.6 明華光出仏65

2.2 広顕衆生往生因果

2.2.1 顕通悲化(悲化段)

2.2.1.1 総明衆生往生因果

2.2.1.1.1 明念仏往生

2.2.1.1.1.1 示往生正定聚益66

2.2.1.1.1.2 顕諸仏共讃嘆67

2.2.1.1.1.3 正明念仏往生68

2.2.1.1.2 明諸行往生

2.2.1.1.2.1 総標69

2.2.1.1.2.2 別相

2.2.1.1.2.2.1 明上輩70

2.2.1.1.2.2.2 明中輩71

2.2.1.1.2.2.3 明下輩72

2.2.1.1.3 明諸仏讃勧

2.2.1.1.3.1 略弁73

2.2.1.1.3.2 広頌(東方偈または往覲偈)74

2.2.1.2 別嘆聖衆功徳

2.2.1.2.1 明一生補処75

2.2.1.2.2 明光明不同76

2.2.1.2.3 明身相具足77

2.2.1.2.4 明智慧円満78

2.2.1.2.5 明永離悪趣79

2.2.1.2.6 明供仏如意80

2.2.1.2.7 明聞法供養81

2.2.1.2.8 明説法順仏82

2.2.1.2.9 明摂化心相83

2.2.1.2.10 広嘆二利徳

2.2.1.2.10.1 総嘆84

2.2.1.2.10.2 別嘆

2.2.1.2.10.2.1 説法広嘆85

2.2.1.2.10.2.2 譬説広嘆

2.2.1.2.10.2.2.1 顕自利徳86

2.2.1.2.10.2.2.2 顕利他徳87

2.2.1.2.10.2.3 別嘆説法88

2.2.1.2.10.3 結嘆89

2.2.1.3 広示欣浄厭穢(善悪段)

2.2.1.3.1 牒前令欣浄

2.2.1.3.1.1 牒前勝90

2.2.1.3.1.2 勧欣求91

2.2.1.3.2 挙苦令厭穢

2.2.1.3.2.1 挙三毒苦令厭(三毒段)

2.2.1.3.2.1.1 明三毒罪過

2.2.1.3.2.1.1.1 明貪欲過92

2.2.1.3.2.1.1.2 明瞋恚過93

2.2.1.3.2.1.1.3 明愚痴過94

2.2.1.3.2.1.2 明如来悲化

2.2.1.3.2.1.2.1 仏対衆正勧95

2.2.1.3.2.1.2.2 述弥勒領解96

2.2.1.3.2.1.2.3 仏印嘆述成

2.2.1.3.2.1.2.3.1 印嘆領解97

2.2.1.3.2.1.2.3.2 述成示喜98

2.2.1.3.2.1.2.3.3 勧往生行99

2.2.1.3.2.1.2.3.4 述弥勒受行100

2.2.1.3.2.2 挙五悪苦令厭(五悪段)

2.2.1.3.2.2.1 捨悪令持善

2.2.1.3.2.2.1.1 総勧101

2.2.1.3.2.2.1.2 別弁

2.2.1.3.2.2.1.2.1 仏自問102

2.2.1.3.2.2.1.2.2 仏自答

2.2.1.3.2.2.1.2.2.1 明第一大善大悪103

2.2.1.3.2.2.1.2.2.2 明第二大善大悪104

2.2.1.3.2.2.1.2.2.3 明第三大善大悪105

2.2.1.3.2.2.1.2.2.4 明第四大善大悪106

2.2.1.3.2.2.1.2.2.5 明第五大善大悪107

2.2.1.3.2.2.2 明如来悲化

2.2.1.3.2.2.2.1 挙過令厭

2.2.1.3.2.2.2.1.1 重弁前過108

2.2.1.3.2.2.2.1.2 正願悲化109

2.2.1.3.2.2.2.2 挙善令修

2.2.1.3.2.2.2.2.1 正勧修善110

2.2.1.3.2.2.2.2.2 比対勧善111

2.2.1.3.2.2.2.2.3 正顕悲化112

2.2.1.3.2.2.2.3 弥勒受持113

2.2.2 顕開智慧(智慧段)

2.2.2.1 弁得失勧誠

2.2.2.1.1 明釈迦告命114

2.2.2.1.2 明阿難致請115

2.2.2.1.3 明弥陀光照116

2.2.2.1.4 明因光見土117

2.2.2.1.5 審二聖見不118

2.2.2.1.6 弁胎化因縁

2.2.2.1.6.1 弥勒疑問119

2.2.2.1.6.2 如来酬答

2.2.2.1.6.2.1 対因顕果

2.2.2.1.6.2.1.1 弁胎生120

2.2.2.1.6.2.1.2 弁化生121

2.2.2.1.6.2.2 対弁得失122

2.2.2.2 顕当生策励

2.2.2.2.1 弥勒問123

2.2.2.2.2 如来答

2.2.2.2.2.1 明此界往生124

2.2.2.2.2.2 明他土往生125

2.2.2.2.2.3 例前顕無数126

 

3 流通分

3.1 明付属流通

3.1.1 挙益付属127

3.1.2 勧学顕益128

3.1.3 属潤遐代129

3.1.4 挙難結勧130

3.2 示聞法得益

3.2.1 通明得益131

3.2.2 別示得益132

3.2.3 現端証誠133

3.2.4 明衆歓喜134