浄土和讃

冠頭讃

2


1

100


弥陀の名号となえつつ

信心まことにうるひとは

憶念の心つねにして

仏恩報ずるおもいあり





2

101


誓願不思議をうたがいて

御名を称する往生は

宮殿のうちに五百歳

むなしくすぐとぞときたまう


讃偈讃

48


1

102


弥陀成仏のこのかたは

いまに十劫をへたまえり

法身の光輪きわもなく

世の盲冥をてらすなり





2

103


智慧の光明はかりなし

有量の諸相ことごとく

光暁かぶらぬものはなし

真実明に帰命せよ





3

104


解脱の光輪きわもなし

光触かぶるものはみな

有無をはなるとのべたまう

平等覚に帰命せよ





4

105


光雲無碍如虚空

一切の有碍にさわりなし

光沢かぶらぬものぞなき

難思議を帰命せよ





5

106


清浄光明ならびなし

遇斯光のゆえなれば

一切の業繫ものぞこりぬ

畢竟依を帰命せよ





6

107


仏光照曜最第一

光炎王仏となづけたり

三塗の黒闇ひらくなり

大応供を帰命せよ





7

108


道光明朗超絶せり

清浄光仏ともうすなり

ひとたび光照かぶるもの

業垢をのぞき解脱をう





8

109


慈光はるかにかぶらしめ

ひかりのいたるところには

法喜をうとぞのべたまう

大安慰を帰命せよ





9

110


無明の闇を破するゆえ

智慧光仏となづけたり

一切諸仏三乗衆

ともに嘆誉したまえり





10

111


光明てらしてたえざれば

不断光仏となづけたり

聞光力のゆえなれば

心不断にて往生す





11

112


仏光測量なきゆえに

難思光仏となづけたり

諸仏は往生嘆じつつ

弥陀の功徳を称せしむ





12

113


神光の離相をとかざれば

無称光仏となづけたり

因光成仏のひかりをば

諸仏の嘆ずるところなり





13

114


光明月日に勝過して

超日月光となづけたり

釈迦嘆じてなおつきず

無等等を帰命せよ





14

115


弥陀初会の聖衆は

算数のおよぶことぞなき

浄土をねがわんひとはみな

広大会を帰命せよ





15

116


安楽無量の大菩薩

一生補処にいたるなり

普賢の徳に帰してこそ

穢国にかならず化するなれ





16

117


十方衆生のためにとて

如来の法蔵あつめてぞ

本願弘誓に帰せしむる

大心海を帰命せよ





17

118


観音勢至もろともに

慈光世界を照曜し

有縁を度してしばらくも

休息あることなかりけり





18

119


安楽浄土にいたるひと

五濁悪世にかえりては

釈迦牟尼仏のごとくにて

利益衆生はきわもなし





19

120


神力自在なることは

測量すべきことぞなき

不思議の徳をあつめたり

無上尊を帰命せよ





20

121


安楽声聞菩薩衆

人天智慧ほがらかに

身相荘厳みなおなじ

他方に順じて名をつらぬ





21

122


顔容端正たぐいなし

精微妙躯非人天

虚無之身無極体

平等力を帰命せよ





22

123


安楽国をねがうひと

正定聚にこそ住すなれ

邪定不定聚くにになし

諸仏讃嘆したまえり





23

124


十方諸有の衆生は

阿弥陀至徳の御名をきき

真実信心いたりなば

おおきに所聞を慶喜せん





24

125


若不生者のちかいゆえ

信楽まことにときいたり

一念慶喜するひとは

往生かならずさだまりぬ





25

126


安楽仏土の依正は

法蔵願力のなせるなり

天上天下にたぐいなし

大心力を帰命せよ





26

127


安楽国土の荘厳は

釈迦無碍のみことにて

とくともつきじとのべたもう

無称仏を帰命せよ





27

128


已今当の往生は

この土の衆生のみならず

十方仏土よりきたる

無量無数不可計なり





28

129


阿弥陀仏の御名をきき

歓喜讃仰せしむれば

功徳の宝を具足して

一念大利無上なり





29

130


たとい大千世界に

みてらん火をもすぎゆきて

仏の御名をきくひとは

ながく不退にかなうなり





30

131


神力無極の阿弥陀は

無量の諸仏ほめたまう

東方恒沙の仏国より

無数の菩薩ゆきたまう





31

132


自余の九方の仏国も

菩薩の往覲みなおなじ

釈迦牟尼如来偈をときて

無量の功徳をほめたまう





32

133


十方の無量菩薩衆

徳本うえんためにとて

恭敬をいたし歌嘆す

みなひと婆伽婆を帰命せよ





33

134


七宝講堂道場樹

方便化身の浄土なり

十方来生きわもなし

講堂道場礼すべし





34

135


妙土広大超数限

本願荘厳よりおこる

清浄大摂受に

稽首帰命せしむべし





35

136


自利利他円満して

帰命方便巧荘厳

こころもことばもたえたれば

不可思議尊を帰命せよ





36

137


神力本願及満足

明了堅固究竟願

慈悲方便不思議なり

真無量を帰命せよ





37

138


宝林宝樹微妙音

自然清和の伎楽にて

哀婉雅亮すぐれたり

清浄楽を帰命せよ





38

139


七宝樹林くににみつ

光曜たがいにかがやけり

華菓枝葉またおなじ

本願功徳聚を帰命せよ





39

140


清風宝樹をふくときは

いつつの音声いだしつつ

宮商和して自然なり

清浄勲を礼すべし





40

141


一一のはなのなかよりは

三十六百千億の

光明てらしてほがらかに

いたらぬところはさらになし





41

142


一一のはなのなかよりは

三十六百千億の

仏身もひかりもひとしくて

相好金山のごとくなり





42

143


相好ごとに百千の

ひかりを十方にはなちてぞ

つねに妙法ときひろめ

衆生を仏道にいらしむる





43

144


七宝の宝池いさぎよく

八功徳水みちみてり

無漏の依果不思議なり

功徳蔵を帰命せよ





44

145


三塗苦難ながくとじ

但有自然快楽音

このゆえ安楽となづけたり

無極尊を帰命せよ





45

146


十方三世の無量慧

おなじく一如に乗じてぞ

二智円満道平等

摂化随縁不思議なり





46

147


弥陀の浄土に帰しぬれば

すなわち諸仏に帰するなり

一心をもちて一仏を

ほむるは無碍人をほむるなり





47

148


信心歓喜慶所聞

乃曁一念至心者

南無不可思議光仏

頭面に礼したてまつれ





48

149


仏慧功徳をほめしめて

十方の有縁にきかしめん

信心すでにえんひとは

つねに仏恩報ずべし


三経讃

22

大経讃

1

150


尊者阿難座よりたち

世尊の威光を瞻仰し

生希有心とおどろかし

未曾見とぞあやしみし





2

151


如来の光瑞希有にして

阿難はなはだこころよく

如是之義ととえりしに

出世の本意あらわせり





3

152


大寂定にいりたまい

如来の光顔たえにして

阿難の恵見をみそなわし

問斯恵義とほめたまう





4

153


如来興世の本意には

本願真実ひらきてぞ

難値難見とときたまい

猶霊瑞華としめしける





5

154


弥陀成仏のこのかたは

いまに十劫とときたれど

塵点久遠劫よりも

ひさしき仏とみえたまう





6

155


南無不可思議光仏

饒王仏のみことにて

十方浄土のなかよりぞ

本願選択摂取する





7

156


無碍光仏のひかりには

清浄歓喜智慧光

その徳不可思議にして

十方諸有を利益せり





8

157


至心信楽欲生と

十方諸有をすすめてぞ

不思議の誓願あらわして

真実報土の因とする





9

158


真実信心うるひとは

すなわち定聚のかずにいる

不退のくらいにいりぬれば

かならず滅度にいたらしむ





10

159


弥陀の大悲ふかければ

仏智の不思議をあらわして

変成男子の願をたて

女人成仏ちかいたり





11

160


至心発願欲生と

十方衆生を方便し

衆善の仮門ひらきてぞ

現其人前と願じける





12

161


臨終現前の願により

釈迦は諸善をことごとく

観経一部にあらわして

定散諸機をすすめけり





13

162


諸善万行ことごとく

至心発願せるゆえに

往生浄土の方便の

善とならぬはなかりけり





14

163


至心回向欲生と

十方衆生を方便し

名号の真門ひらきてぞ

不果遂者と願じける





15

164


果遂の願によりてこそ

釈迦は善本徳本を

弥陀経にあらわして

一乗の機をすすめける





16

165


定散自力の称名は

果遂のちかいに帰してこそ

おしえざれども自然に

真如の門に転入する





17

166


安楽浄土をねがいつつ

他力の信をえぬひとは

仏智不思議をうたがいて

辺地懈慢にとまるなり





18

167


如来の興世にあいがたく

諸仏の経道ききがたし

菩薩の勝法きくことも

無量劫にもまれらなり





19

168


善知識にあうことも

おしうることもまたかたし

よくきくこともかたければ

信ずることもなおかたし





20

169


一代諸教の信よりも

弘願の信楽なおかたし

難中之難とときたまい

無過此難とのべたまう





21

170


念仏成仏これ真宗

万行諸善これ仮門

権実真仮をわかずして

自然の浄土をえぞしらぬ





22

171


聖道権仮の方便に

衆生ひさしくとどまりて

諸有に流転の身とぞなる

悲願の一乗帰命せよ



9

観経讃

1

172


恩徳広大釈迦如来

韋提夫人に勅してぞ

光台現国のそのなかに

安楽世界をえらばしむ





2

173


頻婆娑羅王勅せしめ

宿因その期をまたずして

仙人殺害のむくいには

七重のむろにとじられき





3

174


阿闍世王は瞋怒して

我母是賊としめしてぞ

無道に母を害せんと

つるぎをぬきてむかいける





4

175


耆婆月光ねんごろに

是旃陀羅とはじしめて

不宜住此と奏してぞ

闍王の逆心いさめける





5

176


耆婆大臣おさえてぞ

却行而退せしめつつ

闍王つるぎをすてしめて

韋提をみやに禁じける





6

177


弥陀釈迦方便して

阿難目連富楼那韋提

達多闍王頻婆娑羅

耆婆月光行雨等





7

178


大聖おのおのもろともに

凡愚底下のつみびとを

逆悪もらさぬ誓願に

方便引入せしめけり





8

179


釈迦韋提方便して

浄土の機縁熟すれば

雨行大臣証として

闍王逆悪興ぜしむ





9

180


定散諸機各別の

自力の三心ひるがえし

如来利他の信心に

通入せんとねがうべし



5

小経讃

1

181


十方微塵世界の

念仏の衆生をみそなわし

摂取してすてざれば

阿弥陀となづけたてまつる





2

182


恒沙塵数の如来は

万行の少善きらいつつ

名号不思議の信心を

ひとしくひとえにすすめしむ





3

183


十方恒沙の諸仏は

極難信ののりをとき

五濁悪世のためにとて

証誠護念せしめたり





4

184


諸仏の護念証誠は

悲願成就のゆえなれば

金剛心をえんひとは

弥陀の大恩報ずべし





5

185


五濁悪時悪世界

濁悪邪見の衆生には

弥陀の名号あたえてぞ

恒沙の諸仏すすめたる


諸経讃

9


1

186


無明の大夜をあわれみて

法身の光輪きわもなく

無碍光仏としめしてぞ

安養界に影現する





2

187


久遠実成阿弥陀仏

五濁の凡愚をあわれみて

釈迦牟尼仏としめしてぞ

迦耶城には応現する





3

188


百千倶胝の劫をへて

百千倶胝のしたをいだし

したごと無量のこえをして

弥陀をほめんになおつきじ





4

189


大聖易往とときたまう

浄土をうたがう衆生をば

無眼人とぞなづけたる

無耳人とぞのべたまう





5

190


無上上は真解脱

真解脱は如来なり

真解脱にいたりてぞ

無愛無疑とはあらわるる





6

191


平等心をうるときを

一子地となづけたり

一子地は仏性なり

安養にいたりてさとるべし





7

192


如来すなわち涅槃なり

涅槃を仏性となづけたり

凡地にしてはさとられず

安養にいたりて証すべし





8

193


信心よろこぶそのひとを

如来とひとしとときたまう

大信心は仏性なり

仏性すなわち如来なり





9

194


衆生有碍のさとりにて

無碍の仏智をうたがえば

曾婆羅頻陀羅地獄にて

多劫衆苦にしずむなり


現益讃

15


1

195


阿弥陀如来来化して

息災延命のためにとて

金光明の寿量品

ときおきたまえるみのりなり





2

196


山家の伝教大師は

国土人民をあわれみて

七難消滅の誦文には

南無阿弥陀仏をとなうべし





3

197


一切の功徳にすぐれたる

南無阿弥陀仏をとなうれば

三世の重障みなながら

かならず転じて軽微なり





4

198


南無阿弥陀仏をとなうれば

この世の利益きわもなし

流転輪回のつみきえて

定業中夭のぞこりぬ





5

199


南無阿弥陀仏をとなうれば

梵王帝釈帰敬す

諸天善神ことごとく

よるひるつねにまもるなり





6

200


南無阿弥陀仏をとなうれば

四天大王もろともに

よるひるつねにまもりつつ

よろずの悪鬼をちかづけず





7

201


南無阿弥陀仏をとなうれば

堅牢地祇は尊敬す

かげとかたちとのごとくにて

よるひるつねにまもるなり





8

202


南無阿弥陀仏をとなうれば

難陀跋難大龍等

無量の龍神尊敬し

よるひるつねにまもるなり





9

203


南無阿弥陀仏をとなうれば

炎魔法王尊敬す

五道の冥官みなともに

よるひるつねにまもるなり





10

204


南無阿弥陀仏をとなうれば

他化天の大魔王

釈迦牟尼仏のみまえにて

まもらんとこそちかいしか





11

205


天神地祇はことごとく

善鬼神となづけたり

これらの善神みなともに

念仏のひとをまもるなり





12

206


願力不思議の信心は

大菩提心なりければ

天地にみてる悪鬼神

みなことごとくおそるなり





13

207


南無阿弥陀仏をとなうれば

観音勢至はもろともに

恒沙塵数の菩薩と

かげのごとくに身にそえり





14

208


無碍光仏のひかりには

無数の阿弥陀ましまして

化仏おのおのことごとく

真実信心をまもるなり





15

209


南無阿弥陀仏をとなうれば

十方無量の諸仏は

百重千重囲繞して

よろこびまもりたまうなり


勢至讃

8


1

210


勢至念仏円通して

五十二菩薩もろともに

すなわち座よりたたしめて

仏足頂礼せしめつつ





2

211


教主世尊にもうさしむ

往昔恒河沙劫に

仏世にいでたまえりき

無量光ともうしけり





3

212


十二の如来あいつぎて

十二劫をへたまえり

最後の如来をなづけてぞ

超日月光ともうしける





4

213


超日月光この身には

念仏三昧おしえしむ

十方の如来は衆生を

一子のごとく憐念す





5

214


子の母をおもうがごとくにて

衆生仏を憶すれば

現前当来とおからず

如来を拝見うたがわず





6

215


染香人のその身には

香気あるがごとくなり

これをすなわちなづけてぞ

香光荘厳ともうすなる





7

216


われもと因地にありしとき

念仏の心をもちてこそ

無生忍にはいりしかば

いまこの娑婆界にして





8

217


念仏のひとを摂取して

浄土に帰せしむるなり

大勢至菩薩の

大恩ふかく報ずべし

高僧和讃

高僧讃

10

龍樹

1

218


本師龍樹菩薩は

智度十住毘婆娑等

つくりておおく西をほめ

すすめて念仏せしめたり





2

219


南天竺に比丘あらん

龍樹菩薩となづくべし

有無の邪見を破すべしと

世尊はかねてときたまう





3

220


本師龍樹菩薩は

大乗無上の法をとき

歓喜地を証してぞ

ひとえに念仏すすめける





4

221


龍樹大士世にいでて

難行易行のみちおしえ

流転輪回のわれらをば

弘誓のふねにのせたまう





5

222


本師龍樹菩薩の

おしえをつたえきかんひと

本願こころにかけしめて

つねに弥陀を称すべし





6

223


不退のくらいすみやかに

えんとおもわんひとはみな

恭敬の心に執持して

弥陀の名号称すべし





7

224


生死の苦海ほとりなし

ひさしくしずめるわれらをば

弥陀弘誓のふねのみぞ

のせてかならずわたしける





8

225


智度論にのたまわく

如来は無上法皇なり

菩薩は法臣としたまいて

尊重すべきは世尊なり





9

226


一切菩薩ののたまわく

われら因地にありしとき

無量劫をへめぐりて

万善諸行を修せしかど





10

227


恩愛はなはだたちがたく

生死はなはだつきがたし

念仏三昧行じてぞ

罪障を滅し度脱せし



10

天親

1

228


釈迦の教法おおけれど

天親菩薩はねんごろに

煩悩成就のわれらには

弥陀の弘誓をすすめしむ





2

229


安養浄土の荘厳は

唯仏与仏の知見なり

究竟せること虚空にして

広大にして辺際なし





3

230


本願力にあいぬれば

むなしくすぐるひとぞなき

功徳の宝海みちみちて

煩悩の濁水へだてなし





4

231


如来浄華の聖衆は

正覚のはなより化生して

衆生の願楽ことごとく

すみやかにとく満足す





5

232


天人不動の聖衆は

弘誓の智海より生ず

心業の功徳清浄にて

虚空のごとく差別なし





6

233


天親論主は一心に

無碍光に帰命す

本願力に乗ずれば

報土にいたるとのべたまう





7

234


尽十方の無碍光仏

一心に帰命するをこそ

天親論主のみことには

願作仏心とのべたまえ





8

235


願作仏の心はこれ

度衆生のこころなり

度衆生の心はこれ

利他真実の信心なり





9

236


信心すなわち一心なり

一心すなわち金剛心

金剛心は菩提心

この心すなわち他力なり





10

237


願土にいたればすみやかに

無上涅槃を証してぞ

すなわち大悲をおこすなり

これを回向となづけたり



34

曇鸞

1

238


本師曇鸞和尚は

菩提流支のおしえにて

仙経ながくやきすてて

浄土にふかく帰せしめき





2

239


四論の講説さしおきて

本願他力をときたまい

具縛の凡衆をみちびきて

涅槃のかどにぞいらしめし





3

240


世俗の君子幸臨し

勅して浄土のゆえをとう

十方仏国浄土なり

なにによりてか西にある





4

241


鸞師こたえてのたまわく

わが身は智慧あさくして

いまだ地位にいらざれば

念力ひとしくおよばれず





5

242


一切道俗もろともに

帰すべきところぞさらになき

安楽勧帰のこころざし

鸞師ひとりさだめたり





6

243


魏の主勅して并州の

大巌寺にぞおわしける

ようやくおわりにのぞみては

汾州にうつりたまいにき





7

244


魏の天子はとうとみて

神鸞とこそ号せしか

おわせしところのその名をば

鸞公厳とぞなづけたる





8

245


浄業さかりにすすめつつ

玄忠寺にぞおわしける

魏の興和四年に

遥山寺にこそうつりしか





9

246


六十有七ときいたり

浄土の往生とげたまう

そのとき霊瑞不思議にて

一切道俗帰敬しき





10

247


君子ひとえにおもくして

勅宣くだしてたちまちに

汾州汾西秦陵の

勝地に霊廟たてたまう





11

248


天親菩薩のみことをも

鸞師ときのべたまわずは

他力広大威徳の

心行いかでかさとらまし





12

249


本願円頓一乗は

逆悪摂すと信知して

煩悩菩提体無二と

すみやかにとくさとらしむ





13

250


いつつの不思議をとくなかに

仏法不思議にしくぞなき

仏法不思議ということは

弥陀の弘誓になづけたり





14

251


弥陀の回向成就して

往相還相ふたつなり

これらの回向によりてこそ

心行ともにえしむなれ





15

252


往相の回向ととくことは

弥陀の方便ときいたり

悲願の信行えしむれば

生死すなわち涅槃なり





16

253


還相の回向ととくことは

利他教化の果をえしめ

すなわち諸有に回入して

普賢の徳を修するなり





17

254


論主の一心ととけるをば

曇鸞大師のみことには

煩悩成就のわれらが

他力の信とのべたまう





18

255


尽十方の無碍光は

無明のやみをてらしつつ

一念歓喜するひとを

かならず滅度にいたらしむ





19

256


無碍光の利益より

威徳広大の信をえて

かならず煩悩のこおりとけ

すなわち菩提のみずとなる





20

257


罪障功徳の体となる

こおりとみずのごとくにて

こおりおおきにみずおおし

さわりおおきに徳おおし





21

258


名号不思議の海水は

逆謗の屍骸もとどまらず

衆悪の万川帰しぬれば

功徳のうしおに一味なり





22

259


尽十方無碍光の

大悲大願の海水に

煩悩の衆流帰しぬれば

智慧にうしおに一味なり





23

260


安楽仏国に生ずるは

畢竟成仏の道路にて

無上の方便なりければ

諸仏浄土をすすめけり





24

261


諸仏三業荘厳して

畢竟平等なることは

衆生虚誑の身口意を

治せんがためとのべたまう





25

262


安楽仏国にいたるには

無上宝珠の名号と

真実信心ひとつにて

無別道故とときたまう





26

263


如来清浄本願の

無生の生なりければ

本則三三の品なれど

一二もかわることぞなき





27

264


無碍光如来の名号と

かの光明智相とは

無明長夜の闇を破し

衆生の志願をみてたまう





28

265


不如実修行といえること

鸞師釈してのたまわく

一者信心あつからず

若存若亡するゆえに





29

266


二者信心一ならず

決定なきゆえなれば

三者信心相続せず

余念間故とのべたまう





30

267


三信展転相成す

行者こころをとどむべし

信心あつからざるゆえに

決定の信なかりけり





31

268


決定の信なきゆえに

念相続せざるなり

念相続せざるゆえ

決定の信をえざるなり





32

269


決定の信をえざるゆえ

信心不淳とのべたまう

如実修行相応は

信心ひとつにさだめたり





33

270


万行諸善の小路より

本願一実の大道に

帰入しぬれば涅槃の

さとりはすなわちひらくなり





34

271


本師曇鸞大師をば

粱の天子蕭王は

おわせしかたにつねにむき

鸞菩薩とぞ礼しける



7

道綽

1

272


本師道綽禅師は

聖道万行さしおきて

唯有浄土一門を

通入すべきみちととく





2

273


本師道綽大師は

涅槃の広業さしおきて

本願他力をたのみつつ

五濁の群生すすめしむ





3

274


末法五濁の衆生は

聖道の修行せしむとも

ひとりも証をえじとこそ

教主世尊はときたまえ





4

275


鸞師のおしえをうけつたえ

綽和尚はもろともに

在此起心立行は

此是自力とさだめたり





5

276


濁世の起悪造罪は

暴風駛雨にことならず

諸仏これらをあわれみて

すすめて浄土に帰せしめり





6

277


一形悪をつくれども

専精にこころをかけしめて

つねに念仏せしむれば

諸障自然にのぞこりぬ





7

278


縦令一生造悪の

衆生引接のためにとて

称我名字と願じつつ

若不生者とちかいたり



26

善導

1

279


大心海より化してこそ

善導和尚とおわしけれ

末代濁世のためにとて

十方諸仏に証をこう





2

280


世世に善導いでたまい

法照少康としめしつつ

功徳蔵をひらきてぞ

諸仏の本意とげたまう





3

281


弥陀の名願によらざれば

百千万劫すぐれども

いつつのさわりはなれねば

女身をいかでか転ずべき





4

282


釈迦は要門ひらきつつ

定散諸機をこしらえて

正雑二行方便し

ひとえに専修をすすめしむ





5

283


助正ならべて修するをば

すなわち雑修となづけたり

一心をえざるひとなれば

仏恩報ずるこころなし





6

284


仏号むねと修すれども

現世をいのる行者をば

これも雑修となづけてぞ

千中無一ときらわるる





7

285


こころはひとつにあらねども

雑行雑修これにたり

浄土の行にあらぬをば

ひとえに雑行となづけたり





8

286


善導大師証をこい

定散二心をひるがえし

貪瞋二河の譬喩をとき

弘願の信心守護せしむ





9

287


経道滅尽ときいたり

如来出世の本意なる

弘願真宗にあいぬれば

凡夫念じてさとるなり





10

288


仏法力の不思議には

諸邪業繫さわらねば

弥陀の本弘誓願を

増上縁となづけたり





11

289


願力成就の報土には

自力の心行いたらねば

大小聖人みなながら

如来の弘誓に乗ずなり





12

290


煩悩具足と信知して

本願力に乗ずれば

すなわち穢身すてはてて

法性常楽証せしむ





13

291


釈迦弥陀は慈悲の父母

種種に善巧方便し

われらが無上の信心を

発起せしめたまいけり





14

292


真心徹到するひとは

金剛心なりければ

三品の懺悔するひとと

ひとしと宗師はのたまえり





15

293


五濁悪世のわれらこそ

金剛の信心ばかりにて

ながく生死をすてはてて

自然の浄土にいたるなれ





16

294


金剛堅固の信心の

さだまるときをまちえてぞ

弥陀の心光摂護して

ながく生死をへだてける





17

295


真実信心えざるをば

一心かけぬとおしえたり

一心かけたるひとはみな

三信具せずとおもうべし





18

296


利他の信楽うるひとは

願に相応するゆえに

教と仏語にしたがえば

外の雑縁さらになし





19

297


真宗念仏ききえつつ

一念無疑なるをこそ

希有最勝人とほめ

正念をうとはさだめたれ





20

298


本願相応せざるゆえ

雑縁きたりみだるなり

信心乱失するをこそ

正念うすとはのべたまえ





21

299


信は願より生ずれば

念仏成仏自然なり

自然はすなわち報土なり

証大涅槃うたがわず





22

300


五濁増のときいたり

疑謗のともがらおおくして

道俗ともにあいきらい

修するをみてはあたをなす





23

301


本願毀滅のともがらは

生盲闡提となづけたり

大地微塵劫をへて

ながく三途にしずむなり





24

302


西路を指授せしかども

自障障他せしほどに

曠劫已来もいたずらに

むなしくこそはすぎにけれ





25

303


弘誓のちからをかぶらずは

いずれのときにか娑婆をいでん

仏恩ふかくおもいつつ

つねに弥陀を念ずべし





26

304


娑婆永劫の苦をすてて

浄土無為を期すること

本師釈迦のちからなり

長時に慈恩を報ずべし



10

源信

1

305


源信和尚ののたまわく

われこれ故仏とあらわれて

化縁すでにつきぬれば

本土にかえるとしめしけり





2

306


本師源信ねんごろに

一代仏教のそのなかに

念仏一門ひらきてぞ

濁世末代おしえける





3

307


霊山聴衆とおわしける

源信僧都のおしえには

報化二土をおしえてぞ

専雑の得失さだめたる





4

308


本師源信和尚は

懐感禅師の釈により

処胎経をひらきてぞ

懈慢界をばあらわせる





5

309


専修のひとをほむるには

千無一失とおしえたり

雑修のひとをきらうには

万不一生とのべたまう





6

310


報の浄土の往生は

おおからずとぞあらわせる

化土にうまるる衆生をば

すくなからずとおしえたり





7

311


男女貴賎ことごとく

弥陀の名号称するに

行住座臥もえらばれず

時処諸縁もさわりなし





8

312


煩悩にまなこさえられて

摂取の光明みざれども

大悲ものうきことなくて

つねにわが身をてらすなり





9

313


弥陀の報土をねがうひと

外儀のすがたはことなりと

本願名号信受して

寤寐にわするることなかれ





10

314


極悪深重の衆生は

他の方便さらになし

ひとえに弥陀を称してぞ

浄土にうまるとのべたまう



20

源空

1

315


本師源空世にいでて

弘願の一乗ひろめつつ

日本一州ことごとく

浄土の機縁あらわれぬ





2

316


智慧光のちからより

本師源空あらわれて

浄土真宗をひらきつつ

選択本願のべたまう





3

317


善導源信すすむとも

本師源空ひろめずは

片州濁世のともがらは

いかでか真宗をさとらまし





4

318


曠劫多生のあいだにも

出離の強縁しらざりき

本師源空いまさずは

このたびむなしくすぎなまし





5

319


源空三五のよわいにて

無常のことわりさとりつつ

厭離の素懐をあらわして

菩提のみちにぞいらしめし





6

320


源空智行の至徳には

聖道諸宗の師主も

みなもろともに帰せしめて

一心金剛の戒師とす





7

321


源空存在せしときに

金色の光明はなたしむ

禅定博陸まのあたり

拝見せしめたまいけり





8

322


本師源空の本地をば

世俗のひとびとあいつたえ

綽和尚と称せしめ

あるいは善導としめしけり





9

323


源空勢至と示現し

あるいは弥陀と顕現す

上皇群臣尊敬し

京夷庶民欽仰す





10

324


承久の太上法皇は

本師源空を帰敬しき

釈門儒林みなともに

ひとしく真宗に悟入せり





11

325


諸仏方便ときいたり

源空ひじりとしめしつつ

無上の信心おしえてぞ

涅槃のかどをばひらきける





12

326


真の知識にあうことは

かたきがなかになおかたし

流転輪回のきわなきは

疑情のさわりにしくぞなき





13

327


源空光明はなたしめ

門徒につねにみせしめき

賢哲愚夫もえらばれず

豪貴鄙賎もへだてなし





14

328


命終その期ちかづきて

本師源空のたまわく

往生みたびになりぬるに

このたびことにとげやすし





15

329


源空みずからのたまわく

霊山会上にありしとき

声聞僧にまじわりて

頭陀を行じて化度せしむ





16

330


粟散片州に誕生して

念仏宗をひろめしむ

衆生化度のためにとて

この土にたびたびきたらしむ





17

331


阿弥陀如来化してこそ

本師源空としめしけれ

化縁すでにつきぬれば

浄土にかえりたまいにき





18

332


本師源空のおわりには

光明紫雲のごとくなり

音楽哀婉雅亮にて

異香みぎりに暎芳す





19

333


道俗男女預参し

卿上雲客群集す

頭北面西右脇にて

如来涅槃の儀をまもる





20

334


本師源空命終時

建暦第二壬申歳

初春下旬第五日

浄土に還帰せしめけり


総讃

2


1

335


五濁悪世の衆生の

選択本願信ずれば

不可称不可説不可思議の

功徳は行者の身にみてり





2

336


南無阿弥陀仏をとけるには

衆善海水のごとくなり

かの清浄の善身にえたり

ひとしく衆生に回向せん

正像末和讃

夢告讃

1


1

337


弥陀の本願信ずべし

本願信ずるひとはみな

摂取不捨の利益にて

無上覚をばさとるなり


三時讃

58


1

338


釈迦如来かくれましまして

二千余年になりたまう

正像の二時はおわりにき

如来の遺弟悲泣せよ





2

339


末法五濁の有情の

行証かなわぬときなれば

釈迦の遺法ことごとく

龍宮にいりたまいにき





3

340


正像末の三時には

弥陀の本願ひろまれり

像季末法のこの世には

諸善龍宮にいりたまう





4

341


大集経にときたまう

この世は第五の五百年

闘諍堅固なるゆえに

白法隠滞したまえり





5

342


数万歳の有情も

果報ようやくおとろえて

二万歳にいたりては

五濁悪世の名をえたり





6

343


劫濁のときうつるには

有情ようやく身小なり

五濁悪邪まさるゆえ

毒蛇悪龍のごとくなり





7

344


無明煩悩しげくして

塵数のごとく遍満す

愛憎違順することは

高峯岳山にことならず





8

345


有情の邪見熾盛にて

叢林棘刺のごとくなり

念仏の信者を疑謗して

破壊瞋毒さかりなり





9

346


命濁中夭刹那にて

依正二報滅亡し

背正帰邪まさるゆえ

横にあたをぞおこしける





10

347


末法第五の五百年

この世の一切有情の

如来の悲願を信ぜずは

出離その期はなかるべし





11

348


九十五種世をけがす

唯仏一道きよくます

菩提に出到してのみぞ

火宅の利益は自然なる





12

349


五濁の時機いたりては

道俗ともにあらそいて

念仏信ずるひとをみて

疑謗破滅さかりなり





13

350


菩提をうまじきひとはみな

専修念仏にあたをなす

頓教毀滅のしるしには

生死の大海きわもなし





14

351


正法の時機とおもえども

底下の凡愚となれる身は

清浄真実のこころなし

発菩提心いかがせん





15

352


自力聖道の菩提心

こころもことばもおよばれず

常没流転の凡愚は

いかでか発起せしむべき





16

353


三恒河沙の諸仏の

出世のみもとにありしとき

大菩提心おこせども

自力かなわで流転せり





17

354


像末五濁の世となりて

釈迦の遺教かくれしむ

弥陀の悲願ひろまりて

念仏往生さかりなり





18

355


超世無上に摂取し

選択五劫思惟して

光明寿命の誓願を

大悲の本としたまえり





19

356


浄土の大菩提心は

願作仏心をすすめしむ

すなわち願作仏心を

度衆生心となづけたり





20

357


度衆生心ということは

弥陀智願の回向なり

回向の信楽うるひとは

大般涅槃をさとるなり





21

358


如来の回向に帰入して

願作仏心をうるひとは

自力の回向をすてはてて

利益有情はきわもなし





22

359


弥陀の智願海水に

他力の信水いりぬれば

真実報土のならいにて

煩悩菩提一味なり





23

360


如来二種の回向を

ふかく信ずるひとはみな

等正覚にいたるゆえ

憶念の心はたえぬなり





24

361


弥陀智願の回向の

信楽まことにうるひとは

摂取不捨の利益ゆえ

等正覚にいたるなり





25

362


五十六億七千万

弥勒菩薩はとしをへん

まことの信心うるひとは

このたびさとりをひらくべし





26

363


念仏往生の願により

等正覚にいたるひと

すなわち弥勒におなじくて

大般涅槃をさとるべし





27

364


真実信心うるゆえに

すなわち定聚にいりぬれば

補処の弥勒におなじくて

無上覚をさとるなり





28

365


像法のときの智人も

自力の諸教をさしおきて

時機相応の法なれば

念仏門にぞいりたまう





29

366


弥陀の尊号となえつつ

信楽まことにうるひとは

憶念の心つねにして

仏恩報ずるおもいあり





30

367


五濁悪世の有情の

選択本願信ずれば

不可称不可説不可思議の

功徳は行者の身にみてり





31

368


無碍光仏のみことには

未来の有情利せんとて

大勢至菩薩に

智慧の念仏さずけしむ





32

369


濁世の有情をあわれみて

勢至念仏すすめしむ

信心のひとを摂取して

浄土に帰入せしめけり





33

370


釈迦弥陀の慈悲よりぞ

願作仏心はえしめたる

信心の智慧にいりてこそ

仏恩報ずる身とはなれ





34

371


智慧の念仏うることは

法蔵願力のなせるなり

信心の智慧なかりせば

いかでか涅槃をさとらまし





35

372


無明長夜の燈炬なり

智眼くらしとかなしむな

生死大海の船筏なり

罪障おもしとなげかざれ





36

373


願力無窮にましませば

罪業深重もおもからず

仏智無辺にましませば

散乱放逸もすてられず





37

374


如来の作願をたずぬれば

苦悩の有情をすてずして

回向を首としたまいて

大悲心をば成就せり





38

375


真実信心の称名は

弥陀回向の法なれば

不回向となづけてぞ

自力の称念きらわるる





39

376


弥陀智願の広海に

凡夫善悪の心水も

帰入しぬればすなわちに

大悲心とぞ転ずなる





40

377


造悪このむわが弟子の

邪見放逸さかりにて

末世にわが法破すべしと

蓮華面経にときたまう





41

378


念仏誹謗の有情は

阿鼻地獄に堕在して

八万劫中大苦悩

ひまなくうくとぞときたまう





42

379


真実報土の正因を

二尊のみことにたまわりて

正定聚に住すれば

かならず滅度をさとるなり





43

380


十方無量の諸仏の

証誠護念のみことにて

自力の大菩提心の

かなわぬほどはしりぬべし





44

381


真実信心うることは

末法濁世にまれなりと

恒沙の諸仏の証誠に

えがたきほどをあらわせり





45

382


往相還相の回向に

もうあわぬ身となりにせば

流転輪回もきわもなし

苦海の沈淪いかがせん





46

383


仏智不思議を信ずれば

正定聚にこそ住しけれ

化生のひとは智慧すぐれ

無上覚をぞさとりける





47

384


不思議の仏智を信ずるを

報土の因としたまえり

信心の正因うることは

かたきがなかになおかたし





48

385


無始流転の苦をすてて

無上涅槃を期すること

如来二種の回向の

恩徳まことに謝しがたし





49

386


報土の信者はおおからず

化土の行者はかずおおし

自力の菩提かなわねば

久遠劫より流転せり





50

387


南無阿弥陀仏の回向の

恩徳広大不思議にて

往相回向の利益には

還相回向に回入せり





51

388


往相回向の大慈より

還相回向の大悲をう

如来の回向なかりせば

浄土の菩提はいかがせん





52

389


弥陀観音大勢至

大願のふねに乗じてぞ

生死のうみにうかみつつ

有情をよぼうてのせたまう





53

390


弥陀大悲の誓願を

ふかく信ぜんひとはみな

ねてもさめてもへだてなく

南無阿弥陀仏をとなうべし





54

391


聖道門のひとはみな

自力の心をむねとして

他力不思議にいりぬれば

義なきを義とすと信知せり





55

392


釈迦の教法ましませど

修すべき有情のなきゆえに

さとりうるもの末法に

一人もあらじとときたまう





56

393


三朝浄土の大師等

哀愍摂受したまいて

真実信心すすめしめ

定聚のくらいにいれしめよ





57

394


他力の信心うるひとを

うやまいおおきによろこべば

すなわちわが親友とぞ

教主世尊はほめたまう





58

395


如来大悲の恩徳は

身を粉にしても報ずべし

師主知識の恩徳も

ほねをくだきても謝すべし


誡疑讃

23


1

396


不了仏智のしるしには

如来の諸智を疑惑して

罪福信じ善本を

たのめば辺地にとまるなり





2

397


仏智の不思議をうたがいて

自力の称念このむゆえ

辺地懈慢にとどまりて

仏恩報ずるこころなし





3

398


罪福信ずる行者は

仏智の不思議をうたがいて

疑城胎宮にとどまれば

三宝にはなれたてまつる





4

399


仏智疑惑のつみにより

懈慢辺地にとまるなり

疑惑のつみのふかきゆえ

年歳劫数をふるととく





5

400


転輪王の王子の

皇につみをうるゆえに

金鎖をもちてつなぎつつ

牢獄にいるがごとくなり





6

401


自力称名のひとはみな

如来の本願信ぜねば

うたがうつみのふかきゆえ

七宝の獄にぞいましむる





7

402


信心のひとにおとらじと

疑心自力の行者も

如来大悲の恩をしり

称名念仏はげむべし





8

403


自力諸善のひとはみな

仏智の不思議をうたがえば

自業自得の道理にて

七宝の獄にぞいりにける





9

404


仏智不思議をうたがいて

善本徳本たのむひと

辺地懈慢にうまるれば

大慈大悲はえざりけり





10

405


本願疑惑の行者には

含花未出のひともあり

或生辺地ときらいつつ

或堕宮胎とすてらるる





11

406


如来の諸智を疑惑して

信ぜずながらなおもまた

罪福ふかく信ぜしめ

善本修習すぐれたり





12

407


仏智を疑惑するゆえに

胎生のものは智慧もなし

胎宮にかならずうまるるを

牢獄にいるとたとえたり





13

408


七宝の宮殿にうまれては

五百歳のとしをとしをへて

三宝を見聞せざるゆえ

有情利益はさらになし





14

409


辺地七宝の宮殿に

五百歳までいでずして

みずから過咎をなさしめて

もろもろの厄をうくるなり





15

410


罪福ふかく信じつつ

善本修習するひとは

疑心の善人なるゆえに

方便化土にとまるなり





16

411


弥陀の本願信ぜねば

疑惑を帯してうまれつつ

はなはすなわちひらけねば

胎に処するにたとえたり





17

412


ときに慈氏菩薩の

世尊にもうしたまいけり

何因何縁いかなれば

胎生化生となづけたる





18

413


如来慈氏にのたまわく

疑惑の心をもちながら

善本修するをたのみにて

胎生辺地にとどまれり





19

414


仏智疑惑のつみゆえに

五百歳まで牢獄に

かたくいましめおわします

これを胎生とときたまう





20

415


仏智不思議をうたがいて

罪福信ずる有情は

宮殿にかならずうまるれば

胎生のものとときたまう





21

416


自力の心をむねとして

不思議の仏智をたのまねば

胎宮にうまれて五百歳

三宝の慈悲にはなれたり





22

417


仏智の不思議を疑惑して

罪福信じ善本を

修して浄土をねがうをば

胎生というとときたまう





23

418


仏智うたがうつみふかし

この心おもいしるならば

くゆるこころをむねとして

仏智の不思議をたのむべし


太子讃

11


1

419


仏智不思議の誓願を

聖徳皇のめぐみにて

正定聚に帰入して

補処の弥勒のごとくなり





2

420


救世観音大菩薩

聖徳皇と示現して

多多のごとくすてずして

阿摩のごとくにそいたまう





3

421


無始よりこのかたこの世まで

聖徳皇のあわれみに

多多のごとくにそいたまい

阿摩のごとくにおわします





4

422


聖徳皇のあわれみて

仏智不思議の誓願に

すすめいれしめたまいてぞ

住正定聚の身となれる





5

423


他力の信をえんひとは

仏恩報ぜんためにとて

如来二種の回向を

十方にひとしくひろむべし





6

424


大慈救世聖徳皇

父のごとくにおわします

大悲救世観世音

母のごとくにおわします





7

425


久遠劫よりこの世まで

あわれみましますしるしには

仏智不思議につけしめて

善悪浄穢もなかりけり





8

426


和国の教主聖徳皇

広大恩徳謝しがたし

一心に帰命したてまつり

奉讃不退ならしめよ





9

427


上宮皇子方便し

和国の有情をあわれみて

如来の悲願を弘宣せり

慶喜奉讃せしむべし





10

428


多生曠劫この世まで

あわれみかぶれるこの身なり

一心帰命たえずして

奉讃ひまなくこのむべし





11

429


聖徳皇のおあわれみに

護持養育たえずして

如来二種の回向に

すすめいれしめおわします


述懐讃

16


1

430


浄土真宗に帰すれども

真実の心はありがたし

虚仮不実のわが身にて

清浄の心もさらになし





2

431


外儀のすがたはひとごとに

賢善精進現ぜしむ

貪瞋邪儀おおきゆえ

奸詐ももはし身にみてり





3

432


悪性さらにやめがたし

こころは蛇蝎のごとくなり

修善も雑毒なるゆえに

虚仮の行とぞなづけたる





4

433


無慚無愧のこの身にて

まことのこころはなけれども

弥陀の回向の御名なれば

功徳は十方にみちたまう





5

434


小慈小悲もなき身にて

有情利益はおもうまじ

如来の願船いまさずは

苦海をいかでかわたるべき





6

435


蛇蝎奸詐のこころにて

自力修善はかなうまじ

如来の回向をたのまでは

無慚無愧にてはてぞせん





7

436


五濁増のしるしには

この世の道俗ことごとく

外儀は仏教のすがたにて

内心外道を帰敬せり





8

437


かなしきかなや道俗の

良時吉日えらばしめ

天神地祇をあがめつつ

卜占祭祀つとめとす





9

438


僧ぞ法師のその御名は

とうときこととききしかど

提婆五邪の法ににて

いやしきものになづけたり





10

439


外道梵士尼乾志に

こころはかわらぬものとして

如来の法衣をつねにきて

一切鬼神をあがむめり





11

440


かなしきかなやこのごろの

和国の道俗みなともに

仏教の威儀をもととして

天地の鬼神を尊敬す





12

441


五濁邪悪のしるしには

僧ぞ法師という御名を

奴婢僕使となづけてぞ

いやしきものとさだめたる





13

442


無戒名字の比丘なれど

末法濁世の世となりて

舎利弗目連にひとしくて

供養恭敬をすすめしむ





14

443


罪業もとよりかたちなし

妄想顛倒のなせるなり

心性もとよりきよけれど

この世はまことのひとぞなき





15

444


末法悪世のかなしみは

南都北嶺の仏法者の

輿かく僧達力者法師

高位をもてなす名としたり





16

445


仏法あなずるしるしには

比丘比丘尼を奴婢として

法師僧徒のとうとさも

僕従ものの名としたり


善光寺讃

5


1

446


善光寺の如来の

われらをあわれみましまして

なにわのうらにきたります

御名をもしらぬ守屋にて





2

447


そのときほとおりけともうしける

疫癘あるいはこのゆえと

守屋がたぐいはみなともに

ほとおりけとぞもうしける





3

448


やすくすすめんためにとて

ほとけと守屋がもうすゆえ

ときの外道みなともに

如来をほとけとさだめたり





4

449


この世の仏法のひとはみな

守屋がことばをもととして

ほとけともうすをたのみにて

僧ぞ法師はいやしめり





5

450


弓削の守屋の大連

邪見きわまりなきゆえに

よろずのものをすすめんと

やすくほとけともうしけり


自然法爾章












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